岡田准一主演「ヘルドッグス」圧巻の格闘シーンが魅力の映画 登場人物の「葛藤」が描かれる原作 先に楽しむべきはどっち?
「Go to Hell」と書いたパラダイスに飛び込む皆さんこんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回は岡田くんが岡田くんであることをスクリーンいっぱいに展開したこの映画だ!
■岡田准一・主演!「ヘルドッグス」(2022年、東映)
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- ヘルドッグス 地獄の犬たち
- 価格:924円(税込)
いきなりワタクシごとで恐縮だが、足を骨折して階段の登り下りが困難なため、この映画は最前列で見たわけですよ。そしたらば席とスクリーンが近くて、一目でスクリーン全体を見渡すのが難しくてさあ。それで岡田くんをずっと目で追ってたんだけど……いや、動き速いし激しいし近いし! 格闘シーンは残像ばかり見ていた気がする。それでもめちゃくちゃ迫力あったわー。いやあ、圧巻。
なんといってもスタッフロールにある通り、「技闘デザイン:岡田准一」だから。ファンとして格闘シーンは隅々まで注視したさ。残像だけど。
これまでも時代劇映画で「殺陣:岡田准一」てのがあったが、現代ものはまた違う。今回は坂口健太郎さん演じる室岡秀喜とのバディものというのもあって、ふたりでのチームプレイ的アクションシーンは特に見応え満点だった。ダンスのフォーメーションみたいなのもあったよ。序盤でトレーニングしていた技を終盤で室岡が実戦で使った場面なんて、「この技は、あの……!」とはからずも感動したくらいだ。グログロでベチョベチョの場面なのに。
パンフレットにも岡田くんは「現代日本が誇るアクションスター」と書かれていて、ああ、そういう存在になったのだなあと感無量。原田眞人監督曰く「岡田くんは、こういうアクションができます、こういうのもできますって、まるで死の商人が武器を売るように、次から次へとアクションをプレゼンテーションしてくれる」だそうで、いや待って、めっちゃ褒めてくれてるのはわかるが、死の商人に喩えられるジャニーズっている?
もちろんこの映画の魅力はアクションシーンだけじゃなく、フィルム・ノワール的な構成だったりバディものとしての面白さだったり、激しさの中にふと訪れる静謐な瞬間との対比だったりと色々あるのだけれど、実はかなり人間関係が複雑なのが特徴。複数のヤクザの団体が登場して、誰と誰がどんな関係なのか、誰が味方で上下関係はどうなってて誰と誰が敵対してるのか、前知識なしで見るとちょっとわかりにくいかもしれない。
ということで原作である。原作は深町秋生の小説『ヘルドッグス 地獄の犬たち』(角川文庫)。この映画に限っては原作を先に読んでおいた方が相関関係がよくわかるのでオススメだ。え、映画の前にネタバラシはされたくないって? 大丈夫、人間関係は原作に準じてるけどストーリーの展開はかなり違うから。
■「ヘルドッグス」、小説と映画はここは違う
主人公は東鞘会系列・神津組の若頭補佐、兼高昭吾。殺しという汚れ仕事をこなしてスピード出世し、組に入って3年半という早さで若頭補佐になった。だが実は彼は本名を出月梧郎という、警視庁組織犯罪対策部特別捜査隊所属の潜入捜査官。身分を隠してヤクザの中に入り、内情を探っているのだ。ところが兼高の潜入には、本人も知らない警察上層部のある思惑があった──。
という基本的な設定については、年数とか役職とかの細かい部分を除けばほぼ原作通り。東鞘会の系列でそれぞれ組長を務める三人が三羽ガラスと呼ばれ、東鞘会七代目会長の十朱を支えていること、兼高と同じ神津組の若頭・三國(映画での役名は「三神」)は格闘を苦手とする経済ヤクザで兼高を嫌っていること、兼高の弟分である室岡はサイコでタガのはずれた殺し屋であること、兼高を東鞘会に送り込んだ上司の阿内や、彼との連絡係を務めるマッサージ師の衣笠など、主要な人物関係も原作と映画で大きな違いはない。人物配置で違うといえば、神津組組長の愛人や室岡の恋人は原作には登場しないことくらいか。
ストーリーが大きく変わってくるのは、十朱を狙った殺し屋を兼高が確保し、その殺し屋を拷問するため「処理場」と呼ばれる場所に行って、そこで大立ち回りが起きて以降だ。そこから先がもうぜんぜん違うのだ。最終的に死ぬ人は同じ(という言い方も乱暴だが)なのだけれど、そこに至る過程が違う。え、この人ここで死ぬの? この人はこの人が殺すの? それ、こんな方法でばれちゃうの? と思わず見入ってしまった。原作読んでても展開は読めない。まったく問題なし!
何より大きな違いは、兼高のキャラクターだ。原作の兼高は子どもの頃に近所のスーパーで起きた強盗殺人事件をきっかけに、警察官になることを決意。刑事になることを夢見ていたが、突然、潜入捜査官を任命される。一方映画では、スーパーでの強盗殺人事件は同じだが、その時には兼高はすでに警察官として交番勤務をしていた。そして近くで起きた事件を防げなかったことを悔やみ、復讐のため犯人を追って失踪。犯人を全員殺したところで古巣につかまり、潜入捜査官として別の人生を与えられたのである。
汚れを知らないままヤクザの世界に入って初めて人殺しに手を染めるのと、すでに殺しの実績がある状態でヤクザになるのとでは、天と地ほども違う。これにより物語のテーマも変わった。
■自らの立ち位置と矛盾に悩む、原作の兼高を堪能せよ
映画はもう、バッキバキでガッチガチのノワールでバイオレンスで、迷いのない腕っ節のぶつかり合いが最高にかっこいいのだけれど、原作は逆だ。迷いがありまくりなのである。だって真面目な警察官がいきなりヤクザになって人を殺すんだよ?
原作は兼高と室岡が沖縄で敵対する組の関係者を殺す場面から始まる。これは映画にも、経緯は違うが使われていた。仕事の後、食事をするという室岡を残して兼高が先にホテルに戻るのも同じ。だがそこからが違う。原作の兼高は、バスルームで吐くのだ。3年経っても殺しに慣れることができないのである。
それでも相手はヤクザだからと自分に言い聞かせていた兼高だが、物語後半、これは映画にはなかった場面だが、まったく無辜の一般女性と子どもを痛めつけねばならない状況に陥る。なんとか何もせずに解放してやりたいが、自分の正体がばれるようなことはできない。兼高は大きな葛藤を強いられる。
さらにもうひとつ兼高には迷いがある。東鞘会の中に、自分の居場所を見出しつつあるのだ。親分の盾になって微笑みながら死んでいく者、兄貴分を逃すために自ら死地に飛び込む者。命をかけて守る人がいる、そんな「家族」を兼高は東鞘会で見つけてしまう。その一方で、自分をここに送り込んだ警察はと言えば……。
文章で味わうアクションシーンもなかなかの迫力だけれど、原作の読みどころはこの兼高の迷いにあると言っていい。刑事になりたかった。でももう、警察官として働く自分の姿を思い描けない。この人を殺したときの彼はどっちの立場だったのだろう、この人を守ろうとする彼はどっち側の人間なのだろう。本人にもわかっていないであろうその揺れを、どうか感じながら読んでほしい。本書がエキサイティングなバイオレンス小説であることは論を俟たないが、葛藤の物語としても一流なのだ。
もちろん映画の兼高に葛藤がまるでないわけではない。それが表れているのが、室岡に「逃げろ」と告げた場面。どこなのかは映画館で確認してね。映画ももちろん良かったのだけれど、原作通りの葛藤に苛まれる岡田くんも見てみたい。はじめに書いたように、この映画は先に原作を読んでおくのをオススメするが、逆の場合はぜひ岡田くんで原作の兼高を脳内再生しながらお読みください。これはこれでめっちゃ刺さるから!
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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