道枝駿佑主演「今夜、世界からこの恋が消えても」予想外の展開に衝撃がハンパない!
切れそうな糸を手繰り寄せてく皆さんこんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回はみっちーの10代最後を飾ったこの初主演映画だ!
■道枝駿佑(なにわ男子)・主演!「今夜、世界からこの恋が消えても」(2022年、東宝)
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- 今夜、世界からこの恋が消えても
- 価格:693円(税込)
泣いたーーーー! どこで泣いたかを微に入り細を穿って説明したいのだがネタバレになるのでぐっとガマンするけども、泣いたわー。原作は一条岬の同名小説『今夜、世界からこの恋が消えても』(メディアワークス文庫)。まずは原作のあらすじから紹介しよう。
友人のいじめをやめさせるのと引き換えに同級生に強要され、日野真織に嘘の告白をした神谷透。ところが真織はそれをOK、3つの奇妙な約束を交わした上で、擬似恋人として付き合うことになる。偽の恋人関係だったが、それでも一緒に毎日を過ごすうちにふたりの距離は縮まっていった──かのように見えた。
しかしある日、真織は透に思いがけない告白をする。彼女は交通事故の後遺症で前向性健忘を患っており、記憶の蓄積ができないというのだ。夜寝ると記憶はリセットされ、その日にあったことは一切忘れてしまう。つまり真織にとって神谷は毎日が初対面。それがばれないよう、毎日克明な日記を書き、それを読み込んで生活しているのだという。そう話したことすら、明日になれば真織は忘れてしまうのだ。それを知った透は、ある行動に出た──。
実在する高次脳機能障害にこういう言い方は失礼だが、こと小説やドラマの世界では前向性健忘というのは「よくある」素材だ。映画「メメント」に「50回目のファーストキス」、「一週間フレンズ。」。小説なら小川洋子『博士の愛した数式』(新潮文庫)、S・J・ワトソン『わたしが眠りにつく前に』(ヴィレッジブックス)、『掟上今日子の備忘録』(講談社文庫)に始まる西尾維新「忘却探偵」シリーズなどなど枚挙にいとまがない。
恋愛ものの場合、「今日の自分」が忘れられるのを承知で日々工夫をこらし、毎日変わらぬ愛を届ける姿に感動する。ミステリなら、限られた時間で不安定な記憶の中から真実を見つけだすというのが主眼になる。『今夜、世界からこの恋が消えても』はその両方の要素を持っているのだけれど、いやはや、途中の展開がね! 言えないけどね! え、何が起きたの、どうなってるの、これどういうこと? といういきなりの戸惑いと、何が起きたかわかったときの「あああああっ!」という思いときたらもうね!
■恋愛とミステリの融合! 原作と映画の違いにも注目せよ
いやごめん、読んだ人/観た人にしかわからない書き方をしてるのは重々承知なんだけども、なんともピュアで衛生感(清潔感ではない←原作参照のこと)のあるふたりにキュン死しそうになってたところに、まったく予想外の方向からぶん殴られるから衝撃ハンパないのよ。
映画も基本設定とおおまかなストーリーは原作通り。ただ映画では「物語の始まり」からいきなり変えてきたから驚いた。原作を先に読んだ人は、映画が始まってすぐの情景を見て、「あれ?」と思ったんじゃないかな。これ違うんじゃない?と。その予想はすぐに当たる。映画は時系列を変えて、原作の後半から始まるのだ。そしてそこから話は過去に遡る。
この改変により、真織が前向性健忘を抱えていることが最初から観客に提示される。同時にこの映画は「彼女に何が起きたのか」を解き明かす物語ですよという道筋が提示された。一方、原作では本人が告白するまで前向性健忘は隠されている。ゆるふわ胸キュン嬉し恥ずかし恋愛ごっこから始まり、途中から怒涛の展開になるという違いがあるわけだ。構成だけでなく文章も平易で、ふだん小説を読み慣れてない人にも読みやすいんじゃないかな。
原作の時系列をいじることで映画はミステリ度を増した。翻って原作は時の流れ通りに進むので(後半で一部いじってくる箇所はあるが)、ふたりの歩みを順を追ってゆっくりじっくり味わえるという利点がある。デートの内容は映画と原作で違っている部分も多く(デートの最中に真織が眠ってしまう展開は原作には存在しない)、特に映画ではカットされてしまった放課後自転車デートのくだりが実にいいのだ。しかもその場面は終盤に大きな意味を持ってくる。
何より映画と原作では終盤の展開が違う。ネタバレにならないようふんわりした表現にとどめるが、原作の真織は「動画は見ない」のよ。じゃあどうするか、そこから何をしたか、というのは原作でお確かめください。映画は映像の力を最大限に生かした展開だったけど、小説は小説ならではの方法で見せてくれる。このあたりはどっちも上手いが、小説の終盤の展開は映画とはかなり違うので、これはぜひ小説を味わってほしいのだ。
あと、些細なことだが、原作では真織の両親が透のことを「知っている」のが嬉しくて、ちょっとジンとしてしまう。他にも、そんな障害を持った真織が学校の勉強はどうしていたのかとか、透が真織に告白するきっかけになったいじめの関係者のその後とか、映画では時間的にどうしても削ぎ落とさざるを得なかった部分が原作ではちゃんと説明されている。原作を読むことでそういった補完もできるぞ。
■映画には登場しなかった、みっちーにぴったりの原作シーン
それにしてもみっちー、原作を読んで想像していた透そのものだった。あの透明感たるや! クールに見えるけど優しくて、ともすれば消えてしまいそうなほど儚げで、なのに妙にトボけてて面白くて、熱量低めに見えるけど実は芯が強くて……ってイメージそのままじゃない? 中でもみっちー担の皆さんにぜひ読んでほしいのが、真織と彼女の親友の泉が透の家に行く場面。これは映画にはなかったシーンだが、みっちー当て書きかな? と思うくらい、みっちーの良さが出ているのだ。
原作の透の家は映画よりもお金に困っていて、お客さんが来ても安い紅茶しか出せない。でもその安い紅茶を、透は凝りに凝って丁寧に入れる。それは透の生活スタイルが滲み出るとてもいい場面なのだけれど、そんな透を泉が「没落した貴族みたいだね」と称するのである。これがツボったのよ。古い団地(原作の神谷家は団地住まい)の台所で紅茶を入れる貴族。エコバッグが似合う貴族。なんかめっちゃみっちーっぽくない?
前述の自転車の場面同様、この紅茶も原作では後々効いてくるので要チェック。そして映画には登場しないこれらのシーンの透を──没落貴族っぽかったり、自転車のパンクを修理して彼女と二人乗りしてはしゃいでるキラキラの青春だったりの透を、ぜひ脳内でみっちーに置き換えて読んでほしい。ほんとぴったりだから! じっちゃんの名にかけて!
そしてもうひとつ、原作ならではの魅力がある。真織、透、そして泉それぞれの視点で物語が紡がれることだ。映画では俯瞰して見ることになるこの3人の心の中が、小説では個々に綴られる。文体も違うし物の見方も違う。何より3人の本音がそこにはある。透の真摯な思い、真織の努力、泉の苦悩。そう、泉の苦悩!
私は冒頭で「泣いたーーーー!」と書いたけど、その8割は泉を演じた古川琴音さんの演技によるものだ。すばらしいな古川さん! 助演女優賞をあげたい。たったひとり、すべてを知ってすべてを背負う。キーパーソンという言い方では足りないくらい、彼女の果たした役割は(ともすれば主演のふたりよりも)大きい。
そんな泉が主人公のスピンオフ小説が刊行された。『今夜、世界からこの涙が消えても』(メディアワークス文庫)だ。大学生になった泉ちゃんが高校時代を回想するもので、彼女が真織にも透にも言えずに抱えていた苦しみがこの物語で明らかになる。ぜひ併せてお読みください。ただし『今夜、世界からこの恋が消えても』を先に読んでおくこと。泉ちゃんの目を通した新たな透をみっちーで脳内再生すべし!
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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