二宮和也主演「浅田家!」自伝エッセイで腑に落ちた “未来の思い出”を創るということ
君の夢よ叶えと願う皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回はニノの七変化に心震えるこの映画だ!
■二宮和也(嵐)・主演!「浅田家!」(2020年、東宝)
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- 浅田家
- 価格:2,860円(税込)
消防士やバンドなどさまざまなシチュエーションになりきった家族写真『浅田家』(赤々舎)と、東日本大震災の現場から写真やアルバムを救い出した人々を追った『アルバムのチカラ』(同)を手掛けた写真家の浅田政志。「浅田家!」は、家族写真という視点から彼の半生を描いた、事実を基に構成された映画である。公開前には中野量太監督によるノベライズ『浅田家!』(徳間文庫)も出版され、活字でも物語が味わえるようになった。
三重県津市に生まれ育った浅田政志は、父の影響で子どもの頃からカメラに馴染み、高校卒業後は大阪の写真専門学校に進んだ。自分にとって唯一無二の写真を撮るという課題に向き合ったとき、思い出したのは家族のこと。そこで家族に協力してもらい、政志にとって一番の家族の思い出──幼い頃に父・兄・自分が次々とケガをして母の勤める病院に運び込まれた時の、包帯を巻かれ痛がる男3人とあきれ返る看護師の母、という場面を同じ家族で「再現」したのだ。
これをきっかけに家族写真に目覚めた政志は、家族の「なりきり写真」を持って上京。売り込みを続けた結果、見事『浅田家』で写真集の芥川賞とも言われる木村伊兵衛写真賞を受賞した。その後、いろんな家族の写真を撮り続けた政志。ところが、彼が写真を撮ったある家族の住む町を東日本大震災が襲った。被災地に飛んだ彼が目にしたのは、瓦礫の中から集められた写真を洗浄し、持ち主に返す活動している一人の青年だった……。
というのが映画及びノベライズの基本的なストーリーだ。ノベライズとは映画をそのまま小説にしたものだから、基本的に描かれている内容に違いはない。だからノベライズを読み返すことで、映画のその場面を何度でも思い出し、味わうことができる。
もちろんちょっとした違いはある。映画では省略された、被災地の少女の「その後」がノベライズには描かれているのは嬉しいボーナスだった。また、専門学校卒業後、就職もせずぶらぶらしていた頃の政志の長髪を「遠目で見るとキムタク風」と描写しているのには笑ってしまったぞ。さすがに映画ではその言葉はなかったが、ニノに対して「キムタク風」ってメタ過ぎるだろ! そんな細かい「映画にはなかったな、これ」という場面を探しながらノベライズを読むと、その場面がニノで浮かんできて楽しいぞ。
■実はもう一冊あった、映画と読み比べたい「原作」
ノベライズと映画に大きな違いがないということは、このコラムに書くネタがないということ。困ったなあ……と思っていたときに見つけたのが、浅田政志『家族写真は「 」である。』(亜紀書房)だ。なんだこれ、浅田さんの自伝エッセイじゃないか! 映画のクレジットには「原案・浅田政志『浅田家』『アルバムのチカラ』」としか記載されてないから気付かなかったが、むしろこっちの方が、原作と呼ぶにふさわしいのでは!?
『家族写真は「 」である。』は、政志の子ども時代に始まり、父が年賀状の写真を撮るエピソードや浅田家の男3人がケガをした話、父から譲られたカメラで友達を撮った話、大阪の写真専門学校で留年しそうになり起死回生の一作として家族の思い出再現写真を撮った話が綴られる。その後、ぶらぶらしていた時期を経て、家族の「なりきり写真」を思いつき、そこから東京へ出て、震災のボランティアへ行って……と、まさに映画そのものの浅田政志の足跡が書かれているのである。
映画を見たあとで『家族写真は「 」である。』を読むと、リアルの浅田政志さんとニノが演じた政志の、共通点と違いの両方が浮かび上がって実に面白い。たとえば専門学校時代に浅田さんが体に入れた入れ墨。浅田さんは専門学校の略称であるアルファベットを入れているのだが、ニノの入れ墨にはその変わりに嵐のメンバーの名前がデザインされているという(探そうと思ったが物語に集中しすぎて探せなかった。もう一度行かねば!)。
最も違っていたのは、映画では政志を影に日向に支えた若菜ちゃんの存在が自伝エッセイには出てこないこと。浅田さんが最初に撮ったのは中学校の友達(男子)だし、東京で若菜ちゃんがギャラリーを借りてくれた話もない。こりゃロマンス関係は映画オリジナルだったのかな……と思っていたら! エッセイも終盤になって、実は上京の時にカノジョと一緒だったこと、そのカノジョは服飾関係の仕事をしていたこと、そしてカノジョからの「言葉に衝撃を受けて」結婚を決めたことがサラっと書かれているではないか。これかああああ!と本を掴んでノタウチまわったさ! やだもうおばちゃん、キュンキュンしちゃったよ。
映画で政志は、浅田家以外のさまざまな写真を撮ったが、それは現実の浅田さんも同じ。それらの写真は『みんな家族』(赤々舎)にまとめられたが、そのうちいくつかが、『家族写真は「 」である。』にも撮影背景のエピソードとともに再録されている。映画にも登場した、家族で描いた虹のTシャツで寝転がる「たっくん」一家。その写真(映画の再現度の素晴らしさよ)を見て浅田さんによる文章を読むと、映画でニノが涙をこぼしながらシャッターを切る場面が甦って泣けてきた。映画でお母さん役を演じた篠原ゆき子さんの演技の素晴らしさも相まって、あれは本当にいい場面だったなあ。
■過去の思い出を愛おしむことと、未来の思い出を創り出すこと
映画の政志は、家族の「思い出再現写真」を撮ったあとでしばらく撮りたいものが見つからなかった。そんな時に出会ったのが、消防士になるのが夢だったという父の言葉。それを機に、家族の喜ぶ顔を見るためにいろんな職業やシチュエーションに「なりきる」写真を思いついた──というふうに描かれていた。『家族写真は「 」である。』には、その心境がもう少し詳しく綴られている。
「撮るテーマを過去の思い出話に絞って考えていたから、再現したい思い出がなくなってしまい、何を撮ればいいのかわからなくなり、あんまり撮っていなかったんです。(中略)過去の思い出話に囚われているから写真が撮れないのなら、『未来のシチュエーションで撮ってみたらどうか』とふと思ったんです」
「家族が未来にこんな職業につくことが『あるかもしれないけどないかもしれない』『なくはないよな』『写真にしてみたい』と思って撮り始めたら、とても広がりがあったんですね。過去だと実際に起こったことしか再現できないけど、未来だと考えてると、どれだけでも広げていけるから、行き詰まらなかったんです」
腑に落ちた。私たちは、写真や映像に過去を見る。ライブに行ったときの自分たちの写真やそのライブDVDを見ることで、その過去に思いを馳せる。「浅田家!」でニノは20歳から40歳までを演じているが、20歳のツンツン金髪のニノを見て「昔のニノみたい!」とニヤニヤしたのは私だけではないだろう。ノベライズ『浅田家!』を読むことで、映画の場面を何度も反芻する。そんな「過去の思い出」はとても大切で、とてもステキで、いつまでも色あせることはない。だが、ある地点まで行けば、それ以上は「増えない」のが思い出なのだと思い知らされた。
過去の思い出を愛おしむのはもちろん楽しい。だが、より広がりのなある「なくはない」かもしれない未来を考えてみるのも確かに楽しそうだ、と膝を打った。今、私の手元には5×20の時に使ったニノの応援うちわがあるけれど、5×30のうちわを作ってそれぞれの担当の仲間と5人で写真を撮るというのはどうだろう。なくはない、いや、きっとあるはずのその未来を先取って、現実がその未来の写真に追いついてくれるのを待つのだ。なんかワクワクしてきたぞ。その時私は還暦過ぎてるけども、何歳になっても待つよ!
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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