松村北斗、西畑大吾主演「ノッキンオン・ロックドドア」一話完結ミステリの背景にある大きな物語に注目 原作はゆっくり? ドラマはいきなり? 違いと楽しみ方を解説
正解は一人じゃ選べない皆さんと、気持ち次第で世界は変わる皆さんこんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回はふたりのジャニーズがW主演を務めるこの探偵ドラマだ!
■松村北斗(SixTONES)、西畑大吾(なにわ男子)・主演!「ノッキンオン・ロックドドア」(テレビ朝日・2023)
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- ノッキンオン・ロックドドア
- 価格:726円(税込)
原作は青崎有吾の同名小説『ノッキンオン・ロックドドア』(徳間文庫)。それぞれ得意ジャンルの異なるふたりの探偵のバディ小説だ。原作は現在2巻まで刊行されている。
探偵事務所「ノッキンオン・ロックドドア」は御殿場倒理(松村北斗)と片無氷雨(西畑大吾)の共同経営の探偵事務所だ。倒理は不可能担当。不可能と思われる犯行をどうやって(HOW)為し得たかを見抜く。氷雨は不可解担当。不可解な事件を前になぜ(WHY)こんな状況になっているのかを解き明かすのを得意とする。それぞれHOWとWHYに特化した能力を持ち、それ以外には弱いため組んで仕事をしている。
それぞれミステリでは、ハウダニット(How done it)とホワイダニット(Why done it)と呼ばれるひとつのジャンルだ。それを分業のうえで融合させたのが本書。たとえば画家殺人事件を扱ったドラマ第1回で言えば、「どうやって密室にしたのか」がHow、「なぜ密室にしたのか」がWhyだ。Howがわかれば犯人は絞られるが、Whyがわかって初めて視聴者は事件の全貌を知ることになる。
原作は短編集で、1巻に7編、2巻に6編が収録されている。放送済みの第3回までは、起きる事件とその真相は原作通り──なのだけれど、ここからが問題。原作には全体を通した物語が存在するのだが、その見せ方・進み方が、原作とドラマではまったく違うのだ。これが単なる一話完結の短編集ではなく彼らには何らかの謎めいた背景があるぞ、というのが原作で示されるのは1巻第4話。そこから少しずつほのめかされ続けるも、それが何かが明確にわかるのは2巻最終話まで待たねばならない。
ところがドラマではいきなり過去に触れてしまったではないか。おいおい、それもうやるんかい! その人、もう出てくるんかい! おまけに2巻最終話でようやく出てきた過去のキモとなる場面を、ドラマ第2回で回想的にチラ見せしてるじゃないか!
■事件は原作に忠実に、彼らの過去は原作のエピを再構成
まずは個別に見ていこう。ドラマ第1回は原作1巻第1話「ノッキンオン・ロックドドア」、前後編となったドラマ第2・3回は原作1巻第7話「限りなく確実な毒殺」を下敷きにしている。予告を見る限り、ドラマ第4回は原作2巻第4話「消える少女追う少女」のようだ。
事件の内容とトリックは原作に忠実だが、ドラマでは事件関係者の来歴に改変を加えているのが特徴。第1回で高畑淳子さん演じた画家の妻は、原作ではただ夫を殺された妻に過ぎず、ドラマのような自分も画家だったという過去や終盤の高畑さんらしい圧巻の芝居の場面もない。息子も親に反抗する子どもでしかなく、バスケをやっていたなどのエピソードはない。原作は「どうやって密室にしたのか」「なぜ密室にしたのか」がわかった段階で幕を閉じる。
第2回・3回も同じだ。事件とトリックは原作通り。衆人環視の中で「どうやって」毒を飲ませたのかを解く「不可能(HOW)」中心の回だ。したがって原作では謎解きにおいて氷雨の活躍は少ない。しかしドラマでは犯人に悲劇的な過去を設定し、動機を原作とは変えていた。つまりここまでのところ、ドラマは原作よりドラマティック(というのもおかしな表現だが)な展開に変えているとみて良さそうだ。
それ以外にも、たとえば毎回ほっくんの中華鍋料理シーンがあるとか(原作でも倒理は料理上手の設定だが、腕を振るう場面は少ない)、原作の糸切美影は現場に落語じゃなくてアメリカの実在のバンドであるチープ・トリックの歌詞を残しているとか、美影と氷雨が会うのは寄席ではなく古本屋だとか、そういった細かな改変が随所にある。
と、今、さらっと書いたが、糸切美影! ドラマでは早乙女太一さん演じるこの美影が、倒理と氷雨、刑事の穿地決と浅からぬ縁があるわけよ。キーマンなのよ。でも彼が原作で登場するのは1巻第4話「チープ・トリック」からなのだ。ドラマ第2回で美影が氷雨に告げた謎めいたセリフ「君は相変わらず、倒理に殺されたがっているね」もこの第4話に出てくる。ついでに言えば、渡部篤郎さん演じる大学時代の恩師がドラマの初回から登場したが、原作で本人が出てくるのは2巻からである。
彼らの登場を早めたことで何が起きたか。彼ら4人がかつて同じゼミの学生であり、そこから何かがあって袂を分かったことが早々に視聴者に知らされた。のみならず、これも原作では2巻最終話まで引っ張られる、倒理がタートルネックを着ている理由もすでに明かされた。ちなみにドラマにあったふたりの入浴シーンは1巻第5話「いわゆるひとつの雪密室」からだ。
■事件を見つめ、互いを見つめるバディものの真骨頂
というわけで細かい違いは多々あれど、やはりドラマと原作の最大の違いは「過去を早出しした」という点に集約される。もちろんその分、引きは強くなっているが、ここはやはり原作のさりげないほのめかしを味わってほしい。それが積み重なったとき、そういうことだったのかというカタルシスが原作にはある。
たとえば原作1巻第2話「髪の短くなった死体」で現場の刑事からどうして夏なのに黒いタートルネックを着ているのかと聞かれた倒理が「刑事なら自分で推理してみな。ヒントは……」と言いかけたところで穿地が「そういうのはよせ」と割って入る場面。同第5話の入浴シーンでタオルを首に巻いて風呂に入る倒理と氷雨の奥歯に物が挟まったような会話。2巻第4話で「人目を気にする」という話の流れで無意識に首に手をやる倒理と話題を逸らす氷雨。ちょっとだけ引っかかる、でもしばらくすると忘れてしまうような、こういう積み重ねが2巻最終話で一気に回収されるのだ。これらはほんの一部なので、ぜひ他の伏線を原作で探してみてほしい。
そして何より原作は話の進み方がゆっくりしている分、倒理と氷雨のわちゃわちゃがドラマ以上にみっちりと! ぎっしりと! ふんだんに! 漫才度合いは原作の方が高いよ。さらに原作は話によって倒理視点の回と氷雨視点の回があって、そこでそれぞれの内心が出てくるのも読みどころ。
そんなコミカルな掛け合いの中にも、ふたりの何とも言えない因果にもつれた、一種倒錯したような関係性が時折覗くのがたまらない。前述の「君は相変わらず、倒理に殺されたがっているね」もそうだし、2巻では大学時代の教授から「君たちはおもしろいね。まるで、ひとりで謎を解くことを恐れているみたいだ」と指摘される。なにそれ萌ゆる。
何より、それぞれ領分があって、互いの苦手を違いが補い、互いの得意をさらにブラッシュアップするというこの関係は、グループの中でそれぞれの個性を出しつつ補い合う彼らにぴったりではないか。グループ内だけではない。東西ジャニーズの旗手で、キュートな王子様路線のなにわ男子とクール&スタイリッシュなSixTONESというあたりからして「領分」が違う。そのハイブリッドだぞ? そりゃもう全方位からかかってきなさいってなもんじゃないか!
ということでおふたりの担当さんたちはぜひとも彼らで脳内再生しつつ原作を読むべし。ちなみに2巻にはジャニーズの先輩グループの名前が唐突に出てくる場面がある。その会話をほっくんと大ちゃんがしてると思うとさらに味わい深いぞ。
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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