「461個のおべんとう」井ノ原快彦と道枝駿佑の“デュエット”が尊い! 弁当エッセイが物語に!?
初めて触れた愛だから求めるのは忘れていい皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回はイノッチと道枝くんのデュエットにハートを撃ち抜かれたこの映画だ!
■井ノ原快彦(V6)、道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズ Jr.)・出演!「461個のおべんとう」(2020年、東映)
ちょ、エンディングでイノッチと道枝くんが歌う「Lookin’4」、めちゃくちゃ良くなかった?!?!?! 映画館で前のめりになって口開けて見入っちゃったわ。脳内でずっと「尊い……尊い……」って拝んでたわ。何あの全編ハモりっぱなしの神々しい歌声。心の動画登録サイトに永久保存した。サントラは出てないの? 配信はあるの? ふたりで歌番組出演とかないの? いっそこれで紅白出たら?
劇中で親子を演じたふたりであり、それぞれV6のイノッチとなにわ男子の道枝くんでもあるので、見ていていろんなトラブルを乗り越えた親子が仲良く共演しているようであり、同時にジャニーズの先輩後輩がカウコンの一夜限りのユニットでめちゃくちゃ高いパフォーマンスを見せてくれてるようでもあり。ああ尊い。尊いしか出てこない。文章書く仕事なのに語彙力ぜんぶ持ってかれてしまった。もう今回は書かなくていい? だめですかそうですか。はい書きます。
あれ何年前だっけ、カウコンの年男ユニット・酉年イレブンでオカケンこと岡本健一と息子の圭人くんが一緒にTIME ZONE歌ったのを思い出した。予期してなかったから、ふたりが一緒に歌うの見たときには息するの忘れたさ。男闘呼組に惚れ込んで35年、「推しが尊い」という言葉を実感として掴んだ瞬間であったことよ。それと似たような気持ちで、スクリーンのイノッチ&道枝くん親子のコラボを見た。
この映画でイノッチが演じた鈴本一樹はミュージシャンで、劇中で2度あったライブの場面ではちゃんと1曲ずつフルに聞かせてくれて、これもまたかっこよくてなあ……。KRAVAさんの歌声も圧巻で、これまた配信もしくはCDを座して待つしかない。Ten 4 The Suns……恐ろしい子!
おおっと、原作を紹介するコラムなのに、ストーリーも何もかもすっ飛ばして音楽シーンの尊さを語ってしまった。すみません、ちゃんとやります。
イラスト・タテノカズヒロ
■原作は弁当記録エッセイ、これをどうやって映画に?
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- 461個の弁当は、親父と息子の男の約束。
- 価格:715円(税込)
原作は渡辺俊美のエッセイ『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』(マガジンハウス)。1浪して高校に入学した息子が「3年間、休まず通って卒業する」と約束したのに対し、父親であるミュージシャンの渡辺さんはそれならばと「3年間、毎日お弁当を作る!」と決意した。そこから3年間で作り続けたお弁当、実に461食。ライブの翌朝だろうが、地方イベントの翌朝だろうが、作り続けた。その怒涛の3年間を綴ったエッセイだ。
とは言うもののこのエッセイ、本当に弁当の話だけなのだ。弁当を作るときには何に気を付けているかとか、どんな工夫をしたら作業が楽になったかとか、卵焼きが好きとか、はては実際に作った弁当の写真がたくさん! 原作小説を紹介するこのコラムで、いったい何をしろというのか。前々回、「浅田家!」を取り上げたときも原作が写真集で困ったが、ノベライズもあったし映画のもとになった出来事が詳しく綴られたエッセイ集もあった。でも今回は料理写真だぞ? 愛用の調味料の話とか、歴代弁当箱の紹介とかだぞ? どうも最近、このコーナーに勝負を挑まれているような気がする。
ところが、なるほど、こう映画にするのかと感心した部分が随所にあった。まず、映画で描かれた、息子が両親の離婚に割り切れない思いを抱えているとか、父親に口ごたえするとか、学校を無断欠席して両親に心配をかけるとか、息子さんの恋愛の顛末とか、あまつさえ弁当を捨てるとかの「苦悩の青春エピソード」はすべて映画オリジナルだ。まったく原作には出てこない。原作の渡辺さん親子は徹頭徹尾仲がいい。そりゃこのままではドラマにはなりませんわなあ、と思うくらい仲がいい。
そこに、ドラマ性を持たせた息子の反抗エピソードを創作することで、まず「物語」を作った。そういう意味ではこの映画は、原作とはまったく別物と言っていい。ところが映画を見ていると、「ああ、原作通りだ」と感じられる。なぜか。原作のエッセンスがちゃんと映画に込められているからだ。それはお父さんが息子を大切に思っていて、息子さんもお父さんが大好きだということ。そして何より、お父さん自身が弁当作りを楽しんでいるということ。
時間が不規則な仕事をしているシングルファーザーが、毎日欠かさず息子の弁当を作る──考えただけでタイヘンだ。尊敬する。私ならできない。だが渡辺さんは作り続けた。普通ならもっと苦労話が出るところだ。ところが……このおじさん、めっちゃ楽しんでる! 料理道具を買い集めるのが楽しかったり、民芸品の弁当箱を地方で探したり。いや、この気持ちわかるわー。とりあえず道具揃えるのってテンション上がるよね。
■原作を読んで、映画に出てきたエピソードを探してみる
さらにはいろんなメニューも、まるで実験のように試している。特定の地方にしかない塩や調味料を使ってみたり、日本酒とみりんがないとき代わりにワインとゆずジャムで照り焼きを作ったら意外と美味しかったり。息子のために、という文言は何度も出てくるが、いや渡辺さん、息子さんどうこうはさておき、もともとこういうの好きだよね? とにやにやしちゃうのだ。だから恩着せがましくない。読んでいてとても楽しい。
映画のイノッチも、料理をしている場面はとても楽しそうだ。過剰な「息子のために」ではなく、作るのが楽しくてやってるのが伝わる。菜箸をカスタマイズして6本で食材を混ぜ、めちゃくちゃ満足げな微笑みを浮かべる場面や、買ってきた新しい弁当箱をドヤ顔で披露する場面なんて最たるものだ。映画は原作よりトラブルが多いが、それでもにこにこしているイノッチに、原作の渡辺さんを見たような気がした。
この菜箸の場面は原作にもある。他に、映画に出てくるエピソードや品物が原作にいろいろ登場するのでぜひ原作で探してみていただきたい。曲げわっぱの弁当箱はもっと詳しく紹介されているし、卵焼きにオクラが入ってる理由も、最後の弁当が三段重だったのも原作にある。何より、映画で作られた弁当はすべて本当に渡辺さんが作ったものを再現している。原作本には弁当の写真が載っているので、その中から映画に出てきた弁当を探してみるのも楽しい。いっそのこと、イノッチが作り道枝くんが食べた弁当を作ってみるのもいい。レシピ本としても使えるのだ、この原作は。
一方、原作の息子さんはお父さんのお弁当をいつも美味しいと言って食べ、感想やお礼のメールをこまめに送ったりする、とても素直で優しい少年だ。道枝くんが演じた息子の虹輝はいろいろと難しい部分も持った子だったけれど、お父さんが作ってくれた最初の弁当を食べたときの「……うまっ」という表情は、たぶん本物の息子さんそのものだったんだろうなと思わせてくれた。原作を道枝くんで想像しながら読むと、お父さん大好きっ子の道枝くんが味わえるぞ。
楽しそうに料理するイノッチと美味しそうに食べる道枝くん、この映像だけでご飯3杯いける。また道枝くんのアップに耐える肌の美しさがもう……まるで向こうの景色が透けて見えそうな透明感……繊細な陶器か何かなの? 道枝くんはガラス細工でできてるの? そんなふたりが顔を見合わせて楽しそうにハモるエンディングを見ていると、きっと本物の渡辺さん親子もこんなふうに仲がいいんだろうなあと、自然と思えてきたのだ。うん、「物語」は違っても、「エッセンス」はちゃんと原作通りだ。
ところでイノッチがやたらとチェックの服を着ていたのにお気づきだろうか。サントラが売ってなくて行き場を失った物欲が妙な方向に暴走し、思わずチェックのワンピを買ってしまったわ。ショッピングモールに入っているシネコンで映画を見るときは気を付けて!
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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