長瀬智也のキレっぷりが魅力の「池袋ウエストゲートパーク」原作では全然キレてない?![ジャニ読みブックガイド第12回]
おまえが消えて喜ぶ者におまえのオールをまかせない皆さん、こんにちは。このコラムのために久しぶりにIWGPのDVDを見返したわけですが、これもう17年も前なのね。長瀬くん、若っ! 山P、子どもじゃん! うわ、和範役って高橋一生だったのか! え、小栗旬出てた? どこに?……とまあ、話そっちのけで俳優ばっかり見てしまったわ。
■長瀬智也(TOKIO)主演&山下智久出演!「池袋ウエストゲートパーク」
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- 池袋ウエストゲートパーク
- 価格:565円(税込)
池袋を舞台にした青春グラフィティドラマ「池袋ウエストゲートパーク」(TBS、2000年)は、今や人気脚本家となった宮藤官九郎の初の連続ドラマ作品である。原作は石田衣良『池袋ウエストゲートパーク』(文春文庫)収録の4編と、シリーズ第2巻『少年計数機』(同)から表題作と「妖精の庭」の2編だ。
主人公のマコトは池袋西口公園近くの果物屋の息子。高校を卒業してからは家業を手伝ったり地元の友だちと遊んだり。ところがある日、仲間のリカが殺された。マコトは池袋のギャングボーイズたちを統括するタカシの助けを得て、犯人を探す──というのが原作第1話の粗筋。
この短編で1997年にオール讀物推理小説新人賞を受賞した石田衣良は、シリーズ化して翌年に単行本デビュー。以降、現在まで13巻と外伝2冊を数える看板シリーズとなった。どれも一話完結の短編集で、マコトが池袋のトラブルシューターとして地域の事件に挑む様子を軸に、若者や社会的弱者の問題を描いている。
ヒットの理由は、ビートの利いたスタイリッシュな文体、個性的で魅力的な登場人物、そして身近でリアルな社会的テーマという三つが揃っていたせいだろう。特に、学歴がなかったり家庭環境に難があったり、風俗で働いていたりヤクザだったり障害があったりという〈見下される立場〉の登場人物が、頭脳と腕っ節と心意気で〈俺とダチと町の平和〉を勝ち取ろうとする姿の力強いことと言ったら!
第2巻『少年計数機』の帯の言葉を今も覚えている。「切れるな! 閉じるな! 池袋で会おう!」というその惹句は、コピーライターの経験もある著者自身が考えたものだ。出版はドラマの放送と同じ2000年。おりしも、「キレる17歳」による殺人事件が相次いだ年である。時勢を取り込みながら、切れる若者や閉じる若者をマコトとその仲間が手助けしていくという物語のスタイルは当時から今に至るまで一貫して続いている。
イラスト・タテノカズヒロ
■「IWGP」、原作とドラマはここが違う
原作はマコトが語り手を務め、比較的客観的に事件の様子を描写していくハードボイルド小説だ。クールで、スタイリッシュで、ときどきセンチメンタルな、青春ハードボイルド。……だもんだから、ドラマの第1回を見た時にはそりゃ驚いたさ。だってバイオレンスアクションコメディになってたんだもの!
ストーリーもあちこち変わっていたが、大きな違いはキャラ造形。ドラマは小ネタやギャグがふんだんに差し込まれるので、登場人物も原作とは大きく変わったコメディ仕様になっていた。原作では「氷の王様」と呼ばれるほどクールで私生活は謎に包まれているタカシが、風呂屋の息子として登場したときの衝撃たるや。
何より違うのはマコトだ。原作のマコトは切れない。もっと頭脳派だし、即座に暴力に訴えることはない。だって本書のテーマである「切れるな!」を発信する側だから。けれどドラマのマコトは切れやすい。ソースの小袋並みにどこからでも切れる。最終回の抗争を止める場面も、原作では知恵と言葉だったがドラマはクライマックスに暴力シーンを入れてきた。
ではドラマでは、「切れるな! 閉じるな!」っていう小説のメッセージは薄まったのか? そうじゃないから面白い。軽いことで切れるマコトは、ここいちばんでは切れないのだ。最終回、マコトは犯人から「切れなさいよ」と言われても切れず、逆に犯人を守ろうとする。原作にはない展開、ないセリフだが、これはクドカン流の「切れるな! 閉じるな!」だと私は理解した。
テーマも然り。援助交際にひきこもり、虐待、ストーカー、マルチ商法など、時代を表す社会病理が次々と扱われる。これも原作と同じだ。ハードボイルドをコメディに変え、展開を変え、キャラを変え、一見別物に見えるようでも、ダチのため町のため〈底辺〉から声を上げるという原作のテーマが随所で顔を出す。見た目は味は変わっても残るものは同じなのだ。
■「IWGP」のジャニーズファン的見どころ・読みどころ
さて、長瀬くんである。マコトってもっと頭脳派なんだけどなあと思いながら見ていたのだが……あははは、あさばばなす! ドラマにあった「麻婆茄子」を「あさばばなす」と読む場面、あれ、長瀬くん自身のエピソードだってのはファンには有名な話だ。そうか、これは長瀬智也のマコトなんだ、と気づいて膝を打った。
184センチの長身で、「男性が選ぶジャニーズ男前ランキング」で1位になるほどのルックス。ライブでの色気と男っぽさ。DASH島で見せる逞しさ。なのにキュートな失敗談には事欠かない。「鶏肉は英語で?」に「バード!」と答え、「無人島にひとつだけ持っていくなら」の問いに「コンビニ」と返す、小6がそのまま大きくなったようなTOKIOの末っ子。その落差が、ドラマでの普段はお馬鹿なマコトと正義感と友情で熱く突っ走るマコトの落差に通じるのだ。
このあと、クドカンと長瀬くんはタッグを組んで多くの作品を生み出していく。のみならずクドカン作品はジャニーズ主演率が高い。そのスタートが「IWGP」なのだ。ドラマのスペシャル版として放送された「スープの回」には岡本健一が出演している。また、ドラマでマコトが大ファンだという設定の川崎麻世は元ジャニーズだ。「麻世さんはなあ、すげえんだぞ、歌って踊れんだぞ!」と踊らない長瀬が熱弁するあたりがもう……(悶死)。
そして注目したいのはNEWSになる前の、15歳の山Pが演じたシュンですよ。まあなんて初々しいこと。内気なアニメオタクで絵が抜群に上手いという役柄は原作通りだけど、ドラマの第9回でとんでもない運命が彼を襲う。悲鳴あげたわ。あれ原作にはないからね? 原作のシュンはコンピュータ会社でバイトしてるらしいからね? 無事なシュンを見たいひとはぜひ原作を。
ドラマは17年前に終わったが小説は続いている。9月には20周年の記念作となる最新刊『裏切りのホワイトカード 池袋ウエストゲートパークⅩⅢ』も発売された。ドラマ以降の原作もぜひジャニ読みして欲しい。ドラマより大人なマコトを長瀬くんで読むのも新鮮だし、たとえば第2巻所収の「水の中の目」に出てくる美少年アツシは十代の頃のKinKi光一がオススメ。第3巻所収の「キミドリの神様」に登場するムダに明るくて前向きな実業家はイノッチがいいなあ。最新刊の13巻に出てくる宅配便ドライバーなんてTOKIOで決まりでしょうBGMは「KIBOU」でしょ。全13巻、ジャニ読みで突っ走れ!
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2017/11/15
第12回アンケートの受付は終了いたしました。
東野圭吾のデビュー作『放課後』の“不器用”な男性教師、前島先生を演じて欲しいジャニーズには1位が相葉雅紀(嵐)さん。2位は堂本剛さん、二宮和也(嵐)さん、加藤シゲアキ(NEWS)、でした。
アンケートの詳細は下記からご覧頂けます。
>> 第12回
たくさんのご参加をありがとうございました!
第13回は、近藤史恵〈ビストロ・パ・マル〉シリーズの三舟シェフです。プロフェッショナルで、ちょっとぶっきらぼうで気難しく見えるけど、本当は優しいシェフ。あなたなら、誰に演じてほしい?
>> アンケート このヒーローにはどのジャニーズ?【13】
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