大矢博子の推し活読書クラブ
2021/04/07

佐藤勝利・上田竜也主演「世にも奇妙な君物語」 オムニバスで描かれた「ひとつの物語」とは

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 地球はいつでもまわってる皆さんとギリギリでいつも生きていたい皆さんこんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回はオムニバスにジャニーズ3人が出演したこのドラマだ!

■佐藤勝利(Sexy Zone)・上田竜也(KAT-TUN)主演、松倉海斗(Travis Japan/ジャニーズJr.)・出演!「世にも奇妙な君物語」(2021年、WOWOW)

 原作は朝井リョウ『世にも奇妙な君物語』(講談社文庫)。どこかで聞いたようなタイトルだけど、これは著者がテレビドラマ「世にも奇妙な物語」(1990〜、フジテレビ)が大好きだったことによる。そしてあとがきに曰く「本家と同じく二時間分、つまり五編分のプロットが出来上がったあたりで、“映像ではなくて文章”、そして“それぞれ異なった脚本家が一作ずつ担当するのではなく、五編すべてを一人が書く”という本家との違いを利用したからくり」を思いついた、とのこと。

 そのからくりについては後述するとして、その宣言通り、本書は5本の短編が収められたオムニバスだ。ジャニーズ出演分を先に紹介すると、勝利くんが主役を務めるのは第3話「立て! 金次郎」。幼稚園を舞台に、子どもの個性にあった育て方をしたいと思っている熱血幼稚園教諭である。しかし先輩教諭から、これまでの行事で見せ場のなかった特定の園児を運動会で目立たせろと指示された。行事は子どものためではなく、保護者のためにあるのだからと。その言い分にどうしても納得できないまま運動会当日を迎え……。

 たっちゃんが主人公なのは第5話「脇役バトルロワイアル」。10代の頃は主役を務めることが多かったが、大人になって脇に回ることが増えた俳優の役だ。もう一度主役を掴みたい、とオーディションに挑むことにしたが、最終選考会場にいたのは、自分も含め脇役として活躍している俳優ばかりで……。

 さらにトラジャの松倉くんが、第2話「リア充裁判」に出演している。コミュニケーション能力促進法という法律が施行され、陽キャ・パリピ・リア充であることが是とされる社会が舞台。学生のコミュニケーション能力を判定する能力調査会・通称リア充裁判に、主人公と一緒に臨む元気な大学生の役だ。ところが裁判は思わぬ展開に……。

 もともとドラマリスペクトで書かれた短編だけあって、どれも原作からの改変はほとんどない。違いといえば、勝利くん演じる幼稚園教諭は原作ではがっしりした体格の大柄な男性に設定されているのと、たっちゃん演じる脇役俳優の名前(些細なことに思えるだろうが、実はけっこう大事)くらいか。それぞれの担当さんはぜひ、自担で脳内再生しながら原作を読んでいただきたい。


イラスト・タテノカズヒロ

■鮮やかなどんでん返し……だけじゃない!

 他の2話についても簡単に紹介しておこう。第1話「シェアハウさない」はライター志望の若い女性がシェアハウスについて記事を書くため、たまたま知り合った人が住むシェアハウスに潜入しようとするもの。しかしそこの住人には何かおかしな空気があって……。そして第4話「13.5文字しか集中して読めな」は扇情的なネットニュースを書いている1児の母が主人公。たとえ事実と食い違おうが、読者が求めているから・書かれた方も宣伝になるからと悪びれない。しかし息子の授業参観で思わぬことが……。

 以上全5話、すべてに共通するのは超意外なオチ、すなわちどんでん返しだ。どんでん返しがあるよ、と書くこと自体普通はネタバレなんだけれど、この作品に関しては本の帯でも番組出演者インタビューでもそれを前面に出しているので、遠慮なく書かせていただく。しかもこの作品のどんでん返し、ちょっと普通じゃないのである。

 まず共通しているのは「一瞬にして絵が変わる」という面白さ。切れ味が鋭いというか、まったく予想だにしなかった方向からいきなりひっくり返されるというか。そもそもどんでん返しが成立するためには、その前の段階で「決着した」と読者が思っていることが必要だ。終わったと思っていたからこそ、足をすくわれる。しかも異常なスピードで落とされる。その速度と落差が本書はハンパじゃない。

 さらに、どんでん返しのあとに待っている「真相」のタイプがすべて異なる。驚く、ゾクリとする、という点は同じなのだが、イヤミス的なものあり皮肉っぽいものありちょっとユーモラスなものあり、と実にバラエティに富んでいるのだ。これだけでもレベルの高さがわかろうというものだが、ここに前述した小説ならではの「からくり」が加わるのである。

 原作未読、ドラマもまだ見ていないという人のために、極力ネタバレにならないように書く。収録作は基本的に1話完結ですべて別の物語だが、全体を通して読めば、緊張と緩和が絶妙に配置されていることに気づくだろう。不気味な第1話、シュールな第2話、ほんわか感動系の第3話、現実を強烈に皮肉る第4話。そしてラストの第5話を読んだとき、この物語がなぜ最後に配置されたのか、はっきりわかるはずだ。読者は最後に作品集全体が伏線となるどんでん返しに出会うことになる。なので本書は1話完結とはいえ、第5話は必ず最後にお読みいただきたい。

 松倉くん出演の「リア充裁判」の、現実離れした話の果てのゾクリとするオチから、5話の中ではオアシス的位置である勝利くんの「立て! 金次郎」で和んで(もちろん和むだけではないのだけれど)、たっちゃん主演の「脇役バトルロワイアル」で全体をひとつのテーマで結んで締める。これが本書の流れだ。

■異なる個性の集合体がひとつの物語をつくる

 中でも「脇役バトルロワイアル」の原作には面白い趣向がある。登場人物全員に、実在の名脇役とよく似た名前とキャラが使われているのだ。原作では、トボけたメガネのコメディリリーフは「八嶋智彦」だし、安定した実力を誇るベテラン脇役俳優は「渡辺いっぺい」だ。わかるね? ちなみにたっちゃんが演じた役の原作での名前は「溝淵淳平」だった。これらの名前はドラマでは使われなかった(それぞれ別の役者さんが演じているのだから当然だ)ので、ぜひ原作を読んでそのメタ感を味わってほしい。

 なぜこんなメタな手法にしたのか。実在の人物を想起することで、「脇役の役割」というこの作品のテーマにより説得力が出るからだ。この話では、脇役それぞれに役割があるということが綴られる。それは緊迫したドラマの中の息抜きだったり、複雑な展開をひとことで説明するセリフだったり、主役の魅力を引き立てる行動だったり。それらがなくては主役は主役でいられないし、脇役なしにドラマは成立しない。

 たとえば今回のドラマでは松倉くんは主役の前座としての噛ませ犬的ポジションだったが、あれがなければ主役が認められる流れにはならない。これは全5話を通した構成にも当てはまる。勝利くんは第3話単体では主役だが、全体を見れば「和ませ役」だ。たっちゃんは第5話では主役だが、全体を見れば「まとめ役」だ。個々が主役でありながら同時に何らかの役割を担う脇役であり、その総体が「世にも奇妙な君物語」なのである。

 これはジャニーズも同じだ。どのグループにも個性を持つメンバーが集まっている。それぞれがソロとして役者やバラエティで活躍しつつ、グループの中では自らの役割を果たすことでグループという総体を作っている。さらに個性の違うグループがそれぞれ役割を担うことでジャニーズという総体を作っているのだ。

 セクゾもKAT-TUNも、グループの構成が何度となく変化した。勝利くんもたっちゃんも、グループの中での役割がその度に変わったことだろう。最初はUだけだったたっちゃんがT-TUを担うようになったのも字面だけのことではない。ラップを引き継ぎ、当初のビジュアルロック系からスポーツ系、ワイルド系と立ち位置を構築し続けてきた。決して饒舌ではない勝利くんがバラエティに体当たりし、新たなファンを増やしている。自身が主役になる場所があり、それが集まったときの役割を果たすことで、グループは何倍もの力を発揮する。『世にも奇妙な君物語』の構造はそのまま、セクゾやKAT-TUNの、ひいてはジャニーズ全体の構造なのである。

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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