永瀬廉主演「うちの執事が言うことには」はあえて“定石”を外した若者たちの成長物語
どんなときもずっとそばでまぶしいその笑顔見せる皆さんこんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム。お待たせしました、キンプリが初登場ですよ!
■永瀬廉・主演、神宮寺勇太・出演!「うちの執事が言うことには」(2019年、東映)
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- うちの執事が言うことには
- 価格:682円(税込)
原作は高里椎奈のヒットシリーズ『うちの執事が言うことには』(角川文庫)。シリーズは全9巻で2016年に一旦完結、その後続編となる『うちの執事に願ったならば』(同)がスタートし、現在6巻まで刊行されている。さらには映画公開に合わせて4月に『うちの執事が言うことにはEX』(同)と題した番外編が刊行された。
平安時代から続く名家の烏丸家。イギリスに留学中だった一人息子の花穎(かえい)は、いきなりの代替わりを父親から言い渡され、帰国することになった。18歳で当主となった花穎にとって心の支えは、幼い頃から慈しみ育ててくれた老執事の鳳。ところが帰国した翌朝、花穎の前に執事として現れたのは彼と年頃のそう変わらぬ初対面の衣更月蒼馬だった──。
というのが原作・映画に共通する物語の冒頭部分である。花穎と衣更月がバディとしていろいろな事件に挑むというのがシリーズの骨子だ。だがなんせ原作は9巻ある。映画はその中からエピソードを抜き出し再構成しているので、まずは映画の方のあらすじを簡単に紹介しておこう。
映画でまず描かれるのは、大好きな老執事じゃなかったという失望もあって衣更月に抵抗を隠せない花穎だ。衣更月がことあるごとに花穎の振る舞いが当主らしくないと苦言を呈するのも気に入らない。そんなある日、花穎は招待された芽雛川家のパーティで大学生ながらパティスリーを経営する赤目刻弥と出会う。だがそのパーティで赤目の連れの女性が何者かに襲われるという事件が起き、花穎が疑われるはめに。さらに烏丸家の使用人たちを次々と凶事が襲う。果たして背後には何があるのか──?
主人公の花穎を廉くんが、パーティで出会いその後花穎と親交を持つ赤目を神宮寺くんが演じている。これがまたふたりとも……てのは後にして、このあらすじが原作全9巻のどこに対応しているか見ていこう。
■映画に使われたエピソードは原作のここにある
まずオープニングの花穎と衣更月の出会いの場面。これは第1巻第1話「はだかの王様と嘘吐き執事」の冒頭エピソードだ。原作では最初から知らされていた当主の代替わりが、映画では帰国してから初めて花穎に知らされるという展開になっていたとか、会話の一部が省略されていたとかの違いはあるが、展開はほぼ原作通り。原作ではこのあと、烏丸家の備品が紛失するという事件が起きるが、そこは映画には登場しない。
続く芽雛川家のパーティの一件。これは続く第1巻第2話「白黒羊と七色の鬼」がもとになっている。衣更月が選んだネクタイを花穎が拒絶する場面もこの話にあるし、パーティで事件が起きて花穎が犯人にされるくだりは原作そのままである。真相が判明したあとの衣更月の意外な行動も原作通り。なお、この事件の真犯人と被害者は第4巻第1話「永遠の国の王子様」に意外な形で再登場するので要チェックだ!
この事件は花穎の “能力”を観客(読者)に知らせるため、という役割が大きい。映画の主眼はそのあとの事件で……おっと、その前に花穎が子犬を飼う場面が映画にあった。これは同じく第1巻の幕間エピソード「仔犬のワルツ」からとられている。また、切ったパンケーキを重ねて食べる花穎に衣更月が「少々特殊なお召し上がり方をなさったようにお見受けしますが、御高説伺っても宜しいでしょうか」と尋ねるシーンは、第3巻第2話「お祖母さんの古時計」の一場面だ。
さて、いよいよ使用人たちが狙われる。これは映画のメインであるだけでなく、原作でも序盤の大きな山場だ。もとになったのは第3巻第3話「狼少年と裏切り執事」である。使用人たちに具体的に何が起きたかはここでは明かさないでおくが、運転手の駒地に起きた事件は原作と映画で違っていたとだけ書いておこう。料理人の雪倉の方は原作通りだった。また、事件の真相も原作に忠実だが、そのきっかけとなった階段のアレ(書けないのよごめんね)は映画オリジナル。原作はその前の話から少しずつ布石が置かれているので、第3話だけではなく3巻の最初から読んでね。
ラストシーンも同じく「狼少年と裏切り執事」の最終場面だ。映画としてはここで大団円を迎えるが、原作では実はもう一段階踏み込んだ謎解きがあるので、ぜひ確認してみていただきたい。それは1巻から3巻までを貫く謎解きにもなっている大仕掛けだ。これも本当は映画でやって欲しかったなあ(まあ、煩雑になるからやめたんだろうけど)。なお、映画では共犯者はひとりだったが、原作にはふたりいる。そして犯人も共犯者たちも引き続き4巻以降に登場するのだ。“関係”は終わらないのである。
■スタート地点の若者たちをキンプリに重ねて観る
執事が事件を解決するというミステリは多い。ジャニーズファンにお馴染みの執事探偵といえば、もちろん東川篤哉原作・櫻井翔主演の『謎解きはディナーのあとで』(小学館文庫)だ。麻耶雄嵩原作・相葉雅紀主演『貴族探偵』(集英社文庫)も、執事が探偵団(?)に名を連ねている。また、世界的に有名なのがP・G・ウッドハウスの「ジーヴス」シリーズ(国書刊行会、文春文庫など)である。上皇后美智子さまが、退位のあとで読むのを楽しみにしているとお話しされたことで日本でも一気に有名になった。厳密にはジーヴズは執事ではなく従僕だが、ここに入れていいだろう。
だがそれら先行作と本シリーズが違うのは、主人と執事の関係だ。基本的に執事探偵モノは「ポンコツな主人を有能な執事が助ける」という構図になっていることが多い。翔くんの影山は雇い主に向かって「アホでございますか?」なんて言っちゃうし、相葉ちゃんの御前様は(ポンコツではない、と思う)出る必要がないくらい執事や使用人が先回りしてすべてやってしまう。ジーヴスなんてその典型、というか原型だ。
だが本シリーズの花穎と衣更月は、どちらも新米である。残念ながら映画ではカットされていたが、第1巻第1話には衣更月が花穎に対してブチ切れる場面がある。「クソ餓鬼」なんて言ったりするんだぞ。ふたりとも若く、「当主って何?」「執事って何?」と手探りなのだ。彼らはぶつかったり傷つけ合ったりしながら、ともに成長していくのである。探偵役も衣更月が務めることもあれば花穎がやることもある。そこが決定的に他の作品と違う。このシリーズはミステリであると同時に、成長小説でもあるのだ。
そんな作品に廉くんと神宮寺くんがキャスティングされたというのは、実に示唆的だ。何の実績もないのに当主としての期待を背負う花穎は、鳴り物入りでデビューし、初年度に紅白出場を果たすほど“推されてる”King&Princeに重なる。神宮寺くんが演じた赤目は(これネタバレになるからはっきり書けないんだけど)、かつてはMr.King vs Mr.Princeだったグループのvsが&に変わったことを思い出させる。これからもっと大きく成長していくふたりの出発点に、この若者たちの迷いと葛藤を描いた「うちの執事が言うことには」が置かれたことは、なんだか大きな応援のような気がしたのだ。
ところで驚いたのはラストシーンだ。使用人全員を集めて花穎が……という、これも「狼少年と裏切り執事」にある場面だが、いやあ、あそこの廉くんの泣き顔が素晴らしかった! 目が真っ赤になって鼻がヒクヒクして〈子どもが泣き出す顔〉になるの、ほんとビックリした。あの泣き顔だけでもこの映画を観る価値があると思うよ。それと、エンドロールはご褒美なのでちゃんと観るが吉だ!
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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