大矢博子の推し活読書クラブ
2018/03/22

亀梨和也出演映画「美しい星」、三島由紀夫の原作こそ“ジャニ読み”したい!

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 悲しみは此処で躊躇わずに捨ててしまう皆さん、こんにちは。カウコンでKAT-TUNの再始動が発表されたあの喜びから早くも3ヶ月が経とうとしております。このコラムでは年始特別企画や放送中のドラマを先に扱ったため延び延びになってましたが、お待たせしました、DVDレンタルも始まってる亀ちゃん出演映画だよ!

■亀梨和也・出演!「美しい星」

「美しい星」(2017年・ギャガ)の原作は、文豪・三島由紀夫が1962年に発表した同名小説『美しい星』(新潮文庫)。色々変えられているんだけど、まずは原作小説の設定から紹介しよう。三島という名前だけで小難しいブンガクだと思ってると驚くぞ。

 埼玉県飯能市に住む大杉一家は平凡な4人家族だったが、空飛ぶ円盤を目撃したのをきっかけに、自らが宇宙から飛来した異星人であると覚醒する。父・重一郎は火星人、母・伊余子は木星人、息子・一雄は水星人、そして娘の暁子は金星人だ。彼らはその素性を隠しながら、自分たちが地球に遣わされた使命──核軍拡の果てに待つ人類滅亡を阻止するため、地道な行動を開始する。ところがそんな時、娘の暁子が同じ金星の同胞と会い、なんと〈処女懐胎〉したと言う。
 一方、白鳥座の未知の惑星から飛来したという仙台在住の3人の男性は、逆に人類を滅ぼすことを目指しており、徐々に賛同者を増やす大杉重一郎を敵視していた。そしてついに対決の時が来る……。

 なんともスットンキョーな話ではないか! 火星人と木星人と水星人と金星人の家族って。その家族が人類滅亡を救うために活動するって。しかも絶妙にコミカル。登場人物が歌舞伎を観に行き、「三島由紀夫の『鰯売恋曳網』という新作」を「こんな小説書きの新作物なんか見るに及ばない」と言い捨てる自虐ギャグまである。『仮面の告白』『金閣寺』『豊饒の海』などの絢爛にして唯美主義的な作品イメージからはちょっと想像できない。こんなのも書いていたのだ、三島由紀夫は。

 この小説の面白いところは、大杉一家が本当に異星人なのか、それとも何かのはずみでそう思い込んでしまった電波系妄想家族なのか、どちらとも取れるような描き方をしていること。後者なら(そう感じる人が多いかも)かなりイタい人々のはずなのだけれど、初めは半笑いで読んでいたのが次第に悲壮感を伴った共感に変わる。圧巻だぞ。


イラスト・タテノカズヒロ

■現代が舞台の映画、60年代の原作

 原作の発表は1962年、東西冷戦の真っ只中だ。戦後からこの時期にかけ、アメリカとソ連を始めとする核保有国が競うように核実験を続けていた。三島は自身が20歳だった1945年、終戦とそれに先立つ原爆投下で「世界の終わり」を感じたと『仮面の告白』や随筆に書いているが、本書にはその時の思いが色濃く出ていると言っていい。

 この原作を現代に置き換えて作られたのが映画「美しい星」なわけだが、すでに冷戦は終わり、同じ時代背景は成立しない。だから核軍拡ではなく、人類滅亡を連想させるものとして地球温暖化を持ってきた。そのあたりの原作と映画の違いは、改変意図も含めて映画公式サイトに丁寧にまとめられている(http://gaga.ne.jp/hoshi/comparison/index.html)が、ふたつだけ、サイトには載っていない大きな改変がある。

 ひとつは、原作では物語冒頭から大杉家は覚醒済みで皆が異星人の自覚を持っているのに対し、映画は覚醒までに40分以上使っているという点。覚醒前の家族が映画では丁寧に描かれるため、覚醒によって彼らがどう変わったかというのがひとつの見せ場になっているが、原作では初手から宇宙人という体裁なのでとにかくツカミが強い。いきなりの宇宙人(と主張する家族)の登場に、「何だこれ」と一気に引き込まれる。

 もうひとつは、原作の大杉家は自分たちが宇宙人であることを隠し、目立たないよう平凡に生きようとしていること。映画では重一郎がテレビで暴走したり暁子(橋本愛)がミスコンに出たりと目立つ振る舞いが多いが、原作は逆だ。出自は隠しつつ、けれど人類救済という使命のため少しずつ同調者を増やしていくのである。なので映画より原作の方が奇矯な感じは少ない。

 そして何より原作のクライマックス──仙台3人組と大杉重一郎の論争(映画では佐々木蔵之介演じる議員秘書との論争)がすごい! 重一郎が、地球人類がいかに愛すべき価値ある存在かをとうとうと論じるのだ。彼が語る〈人類の墓碑銘〉が素晴らしくて泣きそうになる。これはロマンティック過ぎてセリフに向かないせいか映画ではカットされていたので、ぜひ原作で読んでいただきたい。人類、捨てたもんじゃない。

■亀ちゃん演じる一雄、原作はチャラ男!

 亀ちゃんはこの映画で、大杉家長男の一雄役。原作では大学生だが、映画ではフリーターで自転車便のメッセンジャーをしている。国会議員と知り合ったのを機に、水星人である自らの使命──人類救済──のため自分も権力を手にしようと考える野心家だ。

 映画の亀ちゃんはプラネタリウムで連れの女性にのしかかってフラれる場面があるが、原作はもっとチャラ男に描かれている。デート相手の女性が「私、安定した厚い座布団みたいな幸福が好き」と言ったのに対し、「僕は、君みたいな小さいふくふくした座布団の方が好きだな」と返すんだぞこの男は! しかも妹に咎められて答えるに

「人間の女どもとなると、僕はどうしたって手を出さないわけには行かない。僕の目には、彼女たちはすべて異国的に、ものめずらしく、風情ありげに、それからいかにも原始的でぴちぴちして見えるんだから。(中略)僕たち天界の人間はどうしても上から覗く傾きがある。そうすると大抵、あの白いふっくらとした胸のなだらかな谷間がいやでも目に映る」

 先生! ここに変態エロ水星人がいます! いやあ、こっちの理屈っぽいチャラ男な亀ちゃんも見てみたいなあ。原作におけるこの一雄が少しずつ変化していく様子を、どうか亀ちゃんでジャニ読みしていただきたい。映画とは違った一面が見られるはず。

 それにしても亀ちゃん&橋本愛って、何この美しすぎる兄妹。リリー・フランキーさんと中嶋朋子さんという両親からこのふたりが生まれたのか……。あ、いや、リリーさんもセクシーだし中嶋朋子さんも蛍ちゃんの頃から大好きだけど、うん、やっぱり宇宙人なんじゃないかな。

 と、ここまで書いたところでV6・森田剛くんのおめでたいニュースが飛び込んできた! よし、次回は文豪つながりで剛くんが出演した映画『人間失格』をやりましょう。主人公は生田斗真くんだけど、ごめんね、今回ばかりは剛くんをメインにするよ。刮目して待て!

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2017/04/04
第22回アンケートの受付は終了いたしました。

 伊勢湾に浮かぶ小さな島を舞台に、海女の初江と漁師の新治の恋を描いた『潮騒』。勉強はできないけど運動神経がよくて泳ぎは大の得意、無口で思慮深い新演じて欲しい俳優には1位に今井翼さん、玉森裕太(Kis-My-Ft2)さん、上田竜也(KAT-TUN)さんでした。
ご参加をありがとうございました!

第23回は、森田剛の中原中也で小林秀雄「中原中也の思い出」を脳内映像化。友人だった中也の恋人を奪い、周囲の仲間たちにも心配をかけるが、当の彼女とは結局破局。久しぶりに再会した中也は狂気の淵にあり、そんな天才詩人を「嫌悪と愛着との混淆」の中でなんとか理解しようと努める知性の人──。そんな小林秀雄を演じるなら……あなたは誰に演じて欲しい?
>> アンケート このヒーローにはどのジャニーズ?【23】

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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