生田斗真・山田涼介出演映画「グラスホッパー」 映画では再現されなかった原作の伏線回収力に驚け!
土曜日の夜はハイビート胸騒ぎな皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演映画・ドラマの原作小説を紹介するこのコラム、ちょうど新作が途切れたので、リクエストにお答えする旧作シリーズをやっております。今回は特に熱いコールを受けた、これだ!
■生田斗真・主演、山田涼介(Hey! Say! JUMP)・出演!「グラスホッパー」
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- グラスホッパー
- 価格:649円(税込)
「グラスホッパー」(2015年、KADOKAWA/松竹)の原作は、伊坂幸太郎の同名小説『グラスホッパー』(角川文庫)。これまでも多くの著作が映画化されているが、実はジャニーズの出演は本作が初めてだ。
まずはあらすじから。妻を轢き逃げされた鈴木は、復讐のために教師の職を辞して、犯人・寺原の親が経営する裏社会の会社に契約社員として潜り込む。ところが鈴木の目の前で、寺原は車に轢かれてしまった。どうやら「押し屋」と呼ばれる殺し屋が寺原を車道に押し出したらしい。命じられるままに「押し屋」を追跡した鈴木。一方その頃、ターゲットを自殺させる殺し屋「鯨」とナイフ使いの殺し屋「蝉」はそれぞれ自分の仕事をこなしていたが、思わぬ運命のいたずらで「鯨」と「蝉」と鈴木が交差する……。
映画では死んだのは鈴木の妻ではなく婚約者で、轢き逃げではなくハロウィーンの雑踏に薬物中毒者の車が突っ込む大事故というふうに変えられていたが、上記のようにまとめた範囲では大きな違いはない……ように思える。ところがぜんぜん違うから驚く。
たとえば「鯨」のエピソードは大きく変更され、原作には出てこない父親の話が「鯨」の特殊能力が芽生えたきっかけとして登場した。「押し屋」の家での次男とのやりとりとそこから派生するエピソードはぜんぶなくなっていたし、クライマックスで鈴木の危機に登場する人物も変えられていた。「鯨」と「蝉」の最後も違う。生前の妻(映画では婚約者)とのエピソードはまるっきり変わっていたし、原作には存在しない「復讐のきっかけ」が加えられていた。さらにエピローグまでついていた。でも、これらの違いすら瑣末に思えるほどの改変が、映画にはあったのだ(それがダメと言ってるんじゃないぞ、念のため)。
■映画では「落とさざるを得なかった」原作の魅力
映画は原作の何をカットして何を加えたか。これはもう一言で言える。原作から〈伊坂幸太郎らしさ〉をカットし、〈ロマンスとアクション〉を加えたのである。──くどいようだけど、決してそれがダメってんじゃないのよ?
瀧本智行監督はインタビューで「僕も、原作ファンの人もおもしろいと感じた部分を、映画にするには落とさざるを得ないと、初読の段階でわかっていたので『ファンの人に叱られてしまうのでは?』なんてことも考えました」(関西ウォーカー)、「(原作は)伊坂さんの文体ならではの“小説でしかできない表現”で描かれています。それは読者としてはとても面白いのですが、そのまま映画に移行できるものではないので、映画独自の文体を見出すために、シナリオには苦戦しました」(CREATIVE VILLAGE)と語っている。
つまり、小説と同じ味は出せない、映画だからできることをやる、と考えた結果の改変だということ。では監督が「落とさざるを得ない」と感じた原作の面白さとは? それが〈伊坂幸太郎らしさ〉──伏線回収と、飄々とした味わいだ。
伊坂幸太郎の小説はとにかく、張り巡らされた伏線が終盤になってびっくりするくらい鮮やかに回収されるのが最大の魅力。「ええっ、あれ伏線だったの!?」「うそっ、あれがここにつながるの!?」と何度も驚かされる。何気ない会話やさりげないエピソードが、後になってとてつもなく意外な形で効いてくるのだ。クセになるんだよなあ、あの緻密な構成。映画ではサスペンスと疾走感が重視されたため、伏線はすべて取っ払って怪しいものは序盤からあからさまに怪しく描かれていたが、原作を読んだら驚くぞ。
もうひとつの魅力、飄々とした味わいも伊坂幸太郎を語る上で欠かせない。トボけた風味、と言ってもいい。映画では鈴木はヘタレだし「鯨」は怖いし「蝉」はキレてる。けれど原作での彼らのセリフは、時として場違いなほどにユーモラスだったり、哲学的だったりする。文章の湿度が低い。粘度が低い。エグいことを書いていても、残酷な場面であっても、伊坂幸太郎の文章はとても乾いていて客観的だ。そこがいいのだが、これは確かに映像にはしにくいだろう。
■原作で一味違う鈴木と「蝉」に出会おう
ということで、これはもうぜひ原作を読んでいただきたい。映画で生田斗真が演じた鈴木も、山田涼介が演じた「蝉」も、映画とは違った魅力がある。それを斗真と山田くんでジャニ読みすると、実に楽しいぞ。
たとえば映画の鈴木はとにかくヘタレだった。裏社会でのあれこれにビビるだけではなく、走り方はおかしいしサッカーも下手で(映画「友罪」でカラオケを音痴に歌う場面を思い出した)、もともとヘタレという役柄だ。けれど原作ではけっこう口が達者で、裏社会の女上司にも殺し屋にも、その場しのぎにしては機転の効いた口先三寸でごまかしていく。原作の鈴木の持つおかしみを斗真で想像すると、なかなかにコミカルで素敵なのだ。
そして山田くんだ。いやあ、映画でいちばん印象に残ったのがナイフ使いの殺し屋「蝉」を演じた山田くんのアクションだよ! すごかった! あのアクションを見るだけでもチケット代を払う価値がある。さらにあのキレた感じ。身体中の毛穴から狂気が漏れてるような「蝉」の芝居を見たときには、「え、山田涼介ってこんなすごい役者だっけ?」と、ちょっと背筋が冷たくなったもんよ。
でも原作の「蝉」もいいぞ! 相棒の岩西(この苗字と「蝉」をもじったシャレが映画には出てこなかったのが残念)が「蝉」に、人を殺すときには何を考えてるんだ?と尋ねる場面が映画にも原作にもある。この答えが、映画と原作で違うのだ。原作の答えがすごい。〈罪悪感のなさ〉を表現するのにこんな言い方をするのか、のけぞったね。映画とは少し違う方向にキレている。でもその一方で、フランス映画「抑圧」の主人公に自分を重ねたりする深淵な部分もある。あのアクションをする山田くんそのままのイメージで、ぜひ原作をお読みいただきたい。
原作『グラスホッパー』に始まる「殺し屋」シリーズは、このあと『マリアビートル』(角川文庫)、『AX』(KADOKAWA)と続いていく。共通する登場人物もいるのでお楽しみに。
【ジャニーズはみだしコラム】
夏の高校野球が始まりましたね。今年は「熱闘甲子園」(朝日放送)のキャスターに相葉ちゃんが起用され、テーマソングが嵐の「夏疾風」ということもあって、ファンの皆さんも注目しているのでは?
野球といえばジャニーズでは何はなくとも亀ちゃん! 山Pと共演した「僕、運命の人です。」(2017年、日本テレビ)では元高校球児の役でした。「木更津キャッツアイ」(2002年、TBS)は翔くんと岡田くんがバッテリーを組んだよね。そうそう、バッテリーと言えばドラマ版の「バッテリー」(2008年、NHK)では中山優馬くんが天才投手を演じたっけ。
さらに遡ると、ドラマ「コーチ」(1996年、フジ)ではイノッチが、さらにさらに遡ると映画「瀬戸内少年野球団・青春篇 最後の楽園」(1987年、日本ヘラルド)ではトシちゃんがそれぞれ野球をやってます。
いちばん意外なのは、あだち充の名作コミック『タッチ』(小学館)の実写ドラマで、上杉達也・和也の一人二役をオカケンこと男闘呼組の岡本健一(圭人くんのパパだよ!)が演じたことかなあ。1987年の単発ドラマでした。
え、高校野球真っ最中なのに、大事なのを忘れてる? いえいえ、わかってますって。ニノ&裕翔くんの高校野球ドラマ「弱くても勝てます」(2014年、日本テレビ)は次回、本編で扱うので刮目して待て!
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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