大倉忠義出演「モンテ・クリスト伯」原作を読むとわかる「脚本の妙」に脱帽
遠くはなれていても思いはつながってる皆さん、こんにちは。「モンテ・クリスト伯~華麗なる復讐~」(フジテレビ)もすでに終盤、早くもモンクリロスになりかけています。まさかあの世界的名作を、こんなドラマにするとは!
■大倉忠義(関ジャニ∞)・出演!「モンテ・クリスト伯~華麗なる復讐~」
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- モンテ・クリスト伯 1
- 価格:1,122円(税込)
原作はフランスの小説家、アレクサンドル・デュマ・ペールによる『モンテ・クリスト伯』(岩波文庫・他)。書かれたのは1844~46年と、174年も前の作品だ。日本なら江戸時代終盤。そんな時代の小説が世界中に紹介され、何度も映像化・舞台化され、今も読み継がれている。すごいよね。
恋愛も仕事も順風満帆だった船乗りのエドモン・ダンテス。だが、彼の出世を妬むダングラールと、彼の恋人メルセデスに横恋慕するフェルナンにより、無実の罪を着せられる。さらに検事代理のヴィルフォールは、ダンテスの無実を承知していながら保身のために彼を有罪として投獄、生涯出獄できないように手配してしまう。
牢獄の中でファリア神父という老人と知り合ったダンテスは彼からさまざまな知識を吸収し、14年後、ついに脱獄に成功した。ダンテスを陥れた3人はそれぞれ成功し、パリの名士となっていた。ファリア神父の財宝を引き継いだダンテスは貴族のモンテ・クリスト伯爵を名乗って3人に近づき、復讐を開始する……。
ドラマでは現代の日本が舞台となり、ダンテスが柴門暖、ダングラールが神楽、ヴィルフォールが入間、メルセデスがすみれ、というふうに名前を変えている。われらがたっちょんこと大倉くんはフェルナンに相当する南条幸男だ。南条は人気俳優として成功し、暖の婚約者だったすみれと結婚しているのに対し、原作のフェルナンはダンテスが入牢中にメルセデスと結婚し、軍人として名を上げたという設定。ダンテスが戻ってきたときにはモルセール伯爵を名乗っている。
時代も国も違うので、もちろんすべて同じにはできない。なんせ原作にはナポレオンの話とか出てくるし、死刑が公開イベントとして庶民の娯楽になってたり、割とカジュアルに決闘したりするんだから。けれど原作を知っていると、このドラマがいかに原作を大事にしているかがわかるのだ。
■今こそ原作に挑戦するチャンス!
原作を知ってこのドラマを見ている人は、毎回にやにやしているのではないかしら。南条夫妻の娘が海でパドルを流した場面、あれは原作ではモルセール伯爵の息子が山賊に囚われるんだよな、とか。神楽夫妻に子どもがいないけど娘の婚約のくだりはどうするのかなと思ったら、まさか若き実業家として夫人の前に登場させて、しかも原作よりエグい展開にするとはね、とか。原作での山賊の名前が香港マフィアの名前になってたのには笑ったし、ギリシャ王女エデの改変にはひっくり返った。
19世紀のフランス社会の仕組みを持ち込めないところを、とてもうまく日本に置き換えている。それでいて復讐のキモとなる部分は変えてないのがすごい。南条(モルセール伯爵)の過去が新聞記事からばれるのも、神楽(ダングラール)夫人が投機に失敗するのも、暖の雇い主だった守尾(モレル)の息子と仇敵・入間(ヴィルフォール)の娘が恋に落ちるのも、入間の後妻があんなことをするのも、暖がすみれ(メルセデス)の料理を食べないのも、すべて原作通り。現代日本を舞台にした時点で大幅に改変されるんだろうと思っていたのに、まさかここまで原作に沿った展開を守るとは、実に感心した。
だからこそ、今、原作を読むとすごく面白いのである。「あの場面、19世紀のパリだとこうだったのか!」「コレの代わりにアレにしたのか!」というのが次々と出てくるんだから。原作『モンテ・クリスト伯』は岩波文庫で全7巻という長編なのに、うっかり読み始めたら止まらなくなって、結局全巻読破してしまった。むしろ初めて読んだときより、ドラマを見てから読んだ今の方が楽しめたくらいだ。
もともとこの物語は、仇敵3人にどのように復讐するかというテーマがはっきりしているので読みやすく、展開が速い上に波乱万丈。長い割にとても読みやすい。児童向けに短くまとめたものもあるしコミカライズもアニメ化もされているが、ドラマであらすじが頭に入っている今こそ、オリジナルに挑戦していただきたい。
■脇役にして悪役という大倉忠義の新境地
さて、大倉くんだ。これまでどちらかというと、人のいいイケメン、といった役どころが多かった。そんな彼のイメージを一新したのが、舞台「蜘蛛女のキス」(2017)だ。大倉くん演じる若き政治犯が、同じ牢獄に投獄されていたトランスジェンダーの中年と徐々に心通わせていく……という話で、これまでの大倉くんの役とはまったく違う顔を見せてくれた。
そして今回は、初めてと言っていい敵役である。だが、神楽や入間みたいに最初から悪いヤツじゃないってのがミソ。はじめはすみれへの恋心を隠してふたりを祝ってるんだけど魔が差して……という感じに描かれている。仇敵3人の中でも最も地味……というか、他のふたりのようなわかりやすい悪さが見えず、最も揺らぎの大きい役だ。大倉くんの新しい顔がどんどん出てきてワクワクする。
でも違和感はない。それは関ジャニ∞でのポジションに近いからじゃないだろうか。大倉くんは関ジャニ∞の中では末っ子、どんどん前に出るメンバーが多い中で、どちらかというと控えめな印象だ。なのに王道イケメンで雰囲気があって目を引く。と見せかけて若干ヘタレ風味(「ジャニーズ愛仕分け」のたっちょんと来たら!)。それが、今回の役に重なった。だって原作では最初からダンテスに敵愾心バチバチだし、メルセデスにもぐいぐい行くのだ。けれどドラマの南条はそこに気弱さと優しさを見せる。それがこれまでの大倉くんを思い起こさせる。新しい顔だけど知ってる顔。それが南条なのである。
この原稿は第6回が終わったところで書いているが、南条の見せ場はこのあとだ。原作ではモルセール伯爵は貴族院で弁明、父を中傷されたモルセール伯爵の息子とモンテ・クリスト伯が決闘することになる。ドラマでは議員じゃないし息子はいない。さてどうするのかな? 記者会見にでも置き換えるかな?
なお、日本人名に置き換える翻案は、このドラマが最初ではない。1901年に黒岩涙香が『史外史伝 巌窟王』というタイトルで初めて本書を日本に紹介し、そこではエドモン・ダンテスは團友太郎、ダングラールは段倉、メルセデスはお露、といった日本人名に置き換えられている。ただし舞台はフランスのまま。むしろ不自然だろう、マルセイユの森江商店って何だよ、と思うんだが、これまた「聞けば段倉君、呉船長が死んだ相だが」「ハイ何うも早お氣の毒に堪へません」といった名調子なので読み出したら止まらない。はる書房の「世界名作名訳シリーズ」に入っている他、1938年の原本の画像が国会図書館のサイトで読めるので、ぜひどうぞ。
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2017/06/06
第27回アンケートの受付は終了いたしました。
『モンテ・クリスト伯』原作には登場するのにドラマに出てこない、モルセール伯爵の息子のアルベールを演じて欲しい俳優には坂本昌行さん(V6)、安田章大さん(関ジャニ∞)、佐藤勝利さん(Sexy Zone)、マリウス葉さん(Sexy Zone)でした。
ご参加をありがとうございました!
第28回は、少年犯罪を扱う作品の多い薬丸岳の中でも異色作が『神の子』(光文社文庫)だ。主人公はIQ160以上という天才少年・町田博史。とある事情で戸籍を持たず、その頭脳だけで生きてきた孤高の少年である。そんな博史が少年院を脱走して始めたことは……。
生きるためには手段を選ばない。クールで残酷な天才。そんな町田博史をジャニーズがやるなら……大矢のチョイスは、玉森裕太!(Kis-My-Ft2)
あなたは誰に演じて欲しい?
>> アンケート このヒーローにはどのジャニーズ?【28】
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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