横山裕・橋本良亮出演「決算!忠臣蔵」時空を超えたアイドルたちの共演を妄想!
夢見て打ちのめされてまた夢を見る皆さんと、今しか出来ないこと楽しんでく皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回は年末の風物詩とも言えるテーマにジャニーズふたりが挑みましたよ。
■横山裕(関ジャニ∞)、橋本良亮(A.B.C-Z)・出演!「決算!忠臣蔵」(2019年、松竹)
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- 「忠臣蔵」の決算書
- 価格:814円(税込)
元禄14年、播州赤穂藩主・浅野内匠頭が殿中で吉良上野介に斬りかかり、即日切腹。浅野家は取り潰しとなった。相手方の吉良はお咎めなしだったことを不服とした赤穂の浪士たちは、1年9ヶ月に及ぶ準備期間を経て47人で吉良邸に討ち入り、主君の仇である吉良の首級を挙げる。幕府の沙汰で全員切腹となったが、庶民の間ではまさに忠臣と褒め称えられ、多くの芝居などで後世に語り継がれた──というのが赤穂事件であり、その芝居の名前が「忠臣蔵」だ。
忠臣蔵はおそらく日本でいちばん有名な時代劇だと思うが、あまりに何度も映像化・小説化されてきたため、もう新機軸を出すのは難しいだろうと思っていた。が、まさかこう来るとは。「決算!忠臣蔵」は、これまでのドラマでは序盤の見せ場だった浅野内匠頭切腹までのあれこれやクライマックスの討ち入りはさらっと流し(忠臣蔵なのに吉良が出てこないなんて!)、お家取り潰しから討ち入りまでの金の工面や出納のみに絞った物語だったのだ。
確かに言われてみれば、浪士たちの活動資金がどこから出たかなんて、今まで考えもしなかった。藩が取り潰されるにあたって藩士たちに割賦金(退職金)が出るとか、何をどう精算するのかとかという情報も興味深い。挙げ句の果てに、行政担当の役方(文官)と警備担当の番方(武官)の対立に至っては、もう、何これ現代の会社の話なの? 湯水のごとく経費を使う外回りの営業マンを経理部が苦々しく思ってるって話なの? あ、役方と番方については、以前「蜩ノ記」の回で説明しているので、そちらもご覧ください。
原作は小説やコミックではなく、山本博文による学術書寄りの歴史ルポルタージュ『「忠臣蔵」の決算書』(新潮新書)だ。これがめちゃくちゃ面白い。細かい帳簿が残っているというのもすごいし、数字の羅列を見ているだけでもドラマが浮かび上がる。さらに当時の手記や手紙なども交えて経緯をわかりやすく紹介。ここにあるのは「忠臣蔵」ではない。あくまでもリアルな、倒産の後始末の記録なのだ。
これを中村義洋監督がコメディ仕立ての物語にし、ノベライズ『決算!忠臣蔵』(新潮文庫)も出版された。ノベライズには映画には描ききれなかったエピソードも入っている。そしてノベライズと『「忠臣蔵」の決算書』を読み比べると、この出納をこう映画に生かしたのかと驚くことしきり。『「忠臣蔵」の決算書』が材料なら、『決算!忠臣蔵』は料理と言っていい。私がいちばん驚き、感心した脚色は、なぜ討ち入りが12月14日だったのかのくだりだ。ぜひ映画かノベライズでお確かめいただきたい。
イラスト・タテノカズヒロ
■ヨコとはっしーが演じた浪士はこんな人
この映画に、赤穂浪士として参加したのがヨコとはっしーだ。まずヨコが演じた不破数右衛門。赤穂藩で浜辺奉行の任につく武士だったが、藩を追われて牢人となる。映画では商家の用心棒をしていたところ、大石内蔵助が(はずみで)吉良に討ち入ると言ったのを聞いて参加を願い出た──という設定になっていた。
実際はどうだったのか、『「忠臣蔵」の決算書』には、刃傷事件の当時は江戸にいたと書かれている。そして赤穂ではなく山科に隠遁した大石を訪ね、参加を申し出ている。でも殿を怒らせてクビになった者を俺が許すってのもおかしくね? と考えた大石は、ある行動に出た上で「殿が許してくれた」と言って不破を仲間に加えるのだ。何をしたかはぜひ原作で。しかも「殿が言った」とか適当なこと言って勝手に給料も決めてるし! それでいいのか、とちょっと笑ってしまった。その適当な言い訳がしっかり記録に残っているからすごい。ちなみにこのくだりは映画にもノベライズにも登場しない。
一方、はっしーが演じたのは武林唯七。映画では江戸詰で、堀部安兵衛らとともに急進派のひとりとして登場した。吉良を討たねば武士の面目が立ち申さぬ、とやる気満々の若者として描かれている。でも、その割に生活に困って殿から拝領した刀を売ってしまい、討ち入るのに武器がないと申し出る、ちょっと情けない役どころでもあった。
こちらも『「忠臣蔵」の決算書』によると少し違う。江戸に急進派が集まっているところに、武林は自らの考えで赤穂から江戸へ赴き、このグループに加わったのだそうだ。そして上方に戻っては同志を集める役目を担っていた。刀を売った話は原作には出てこないが、その代わり最後に江戸に下るとき、旅費は一律3両だったのに武林だけは「勝手不如意(=お金ぜんぜん無いんですぅ)」と願い出てひとりだけ8両貰っている。
いや、もちろんふたりとも、いいエピソードもあるんだよ? たとえば不破は、討ち入りの際、吉良家を継いだ養子の義周と相対し、一太刀浴びせている。また武林は本丸の吉良上野介を見つけ、槍で突いたところを同士が首を落とすという大手柄をあげているのだ。映画やノベライズではそのいずれも見られなかったので、そこは原作でどうぞ。そして原作には、不破と武林が行動をともにするくだりもある。映画でも見たかったなあ、その場面。
■「決算!忠臣蔵」ジャニオタは時空を歪めて鑑賞すべし
まずヨコの「熱い思いを秘めたクールな剣豪」っぷりがステキだった! これまでヨコが出た映画って、「新宿少年探偵団」も「天地明察」も、その役がどうこう以前に見た目のインパクトが強くて、ある意味ファッショナブルな出オチ(こらこら)感があったし、「破門 ふたりのヤクビョーガミ」は振り回される役だったしで、こんな正面からかっこいいのって映画では初めてでは? そんなヨコが一瞬だけ素の顔を見せたのが川に落ちる瞬間なので、そこは要チェックだぞ。
だが細かく挙げていってはキリがないので、ここはやはりジャニオタだからこそ楽しめる「ジャニーズ忠臣蔵史」の観点から見てみたい。さっきちらっと書いたが、不破は討ち入りのときに吉良義周と戦っている(と不破が書いた父親宛の手紙が原作で紹介されている)。義周といえば……そう、NHK大河ドラマ「元禄繚乱」でタッキーが演じた役なのだ。ここで時空をちょいと歪めると、ヨコとタッキーが刀を交えるという絵が完成するのである。
いや待て、でも「元禄繚乱」でタッキーと戦ったのは今井翼演じる矢頭右衛門七だった。それはそのままにしておきたい気も……。右衛門七は四十七士きっての美少年と言われた人物。「元禄繚乱」回でも書いたように、忠臣蔵を扱ったNHK大河ドラマでは、1975年の「元禄太平記」ではジャニーズJr.(当時)のマチャルこと小坂まさるが、1982年の「峠の群像」ではヨッちゃんこと野村義男が、そして1999年の「元禄繚乱」で翼が演じるという、ジャニーズで受け継がれてきた役なのである。
だが今回の映画で矢頭右衛門七を演じたのはジャニーズではなく鈴鹿央士さんだった……と言えば映画を見た人にはもうおわかりだろう。四十七士きっての美少年・右衛門七の父親・矢頭長助を今回の映画で演じていたのは、岡村隆史さんだ。つまり時空を歪めると、ナイナイ岡村の息子が翼。ナイナイ岡村の息子がヨッちゃん。ナイナイ岡村の息子がマチャル。いや実際、映画で長助をある事件が襲ったときには、心の中で「翼! お父さんがたいへんなことに! ていうか岡村だけど!」ってちょっと混乱したよね。
ちなみに「元禄繚乱」で浅野内匠頭を演じたのは少年隊のヒガシこと東山紀之。また、フジテレビのドラマ「忠臣蔵1/47」(2001)では赤穂浪士のひとり堀部安兵衛を木村拓哉が演じている。ヒガシの仇を討つためにマチャルとヨッちゃんと木村くんと翼とヨコとはっしーが立ち上がるって、ちょっと胸熱じゃない? そういえば「元禄繚乱」のあとには滝沢歌舞伎でも忠臣蔵の殺陣をやってたし、どうせならJr.で四十七士の舞台をやってくれないかなあ。
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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