加藤シゲアキから長尾謙杜へ リメイクドラマ「パパとムスメの7日間」の原作からの改変ポイントとオマージュを楽しむ
今はココで立っている皆さんと、もっとあんな恋がしたい皆さんこんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回はシゲの作家生活10周年記念書籍『1と0と加藤シゲアキ』刊行を祝し、かつてのシゲの役を謙杜くんが引き継いだこのドラマだ!
■ふたりのジャニーズが時代をまたいで同じ役で出演!「パパとムスメの7日間」(TBS)
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- パパとムスメの7日間
- 価格:825円(税込)
シゲ担の皆さん、もう『1と0と加藤シゲアキ』(KADOKAWA)はお読みになったでしょうか。今回ワタクシ、インタビューを担当させていただきまして。Twitterで公式アカウントが公表している通り、7時間もの時間を費やしていろいろ語っていただきましたよ。その誠実な語りを、少しでも生の雰囲気のまま伝えられていればいいのですが。
さて、このコラムの趣旨にのっとれば、『1と0と加藤シゲアキ』に収録されている短編「渋谷と一と〇と」とショートフィルム「渋谷と1と0と」(とその脚本)をジャニ読みとして紹介したいところ。でもシゲ本人の言葉で映像と小説の関係についてインタビューで詳しく語ってくれているので(インタビュー4 ReBorn)、それ以外に何をか言わんや。
ということで、今回は懐かしのシゲ出演ドラマが今年リメイクされ、同じ役を後輩のなにわ男子・謙杜くんが引き継いだのも胸熱なこれをセレクトしたよ。原作は五十嵐貴久の同名小説『パパとムスメの7日間』(幻冬舎文庫)だ。
化粧品会社の冴えないサラリーマン・川原恭一郎と、父親に対して反抗期ばりばりの高校生の娘・小梅の心と体が、ある日突然入れ替わってしまう。中身が女子高生のサラリーマンが会社の新商品開発プロジェクトの部長になったり、中身がおっさんの女子高生が試験や恋愛に苦労したりという騒動を通し、それぞれの立場の「たいへんさ」を理解するようになるというハートルフルコメディである。
入れ替わり物はすでにひとつの定番ジャンルだ。日本での先駆けは山中恒の児童小説『おれがあいつであいつがおれで』(角川文庫他)を映画化した大林宣彦監督の「転校生」(1982年)だろう。近年では父と息子が入れ替わる池井戸潤『民王』(角川文庫)のドラマ化、「入れ替わってる!?」でお馴染みの新海誠監督の映画「君の名は。」(2016年)、刑事とサイコパスが入れ替わるドラマ「天国と地獄~サイコな2人~」(TBS、2021年)とさまざまな作品が生まれているが、この「パパとムスメの7日間」はそのコミカルさと身近さで、入れ替わりものの里程標的作品と言える。
特に小梅(中身はパパ)の側で重点的に描かれるのが、その恋愛模様。サッカー部の先輩・健太とちょっといい雰囲気になってデートの約束をしたタイミングでの入れ替わりだったため、デートを断りたくはない、でもパパに任せるのも不安、ということでパパ(中身は小梅)がこっそりついていく。その後も、健太との仲をキープしたい娘と複雑な心境の父親の攻防が実に楽しいのだ。そしてその健太先輩を演じたのが、2007年のシゲと2022年の謙杜くんなのである。
■2007年版、加藤シゲアキ(NEWS)の不器用な誠実さに悶絶せよ!
2022年版の放送にともなってこちらも配信してくれたので、15年ぶりに見たわけだけども。あまり変わってないと思ってたけど、こうして見るとやっぱり若いわー。まだ加藤成亮だったころのシゲである。「星をめざして」を歌っていたころのシゲである。そんなシゲが演じる健太は、若きガッキー演じる小梅と相思相愛の一歩手前で停滞しているサッカー少年。
原作との違いは多々あれど、ここは健太パートに絞って書くね。小梅(中身はパパ)と健太先輩の初デートが描かれるのは第2回。小梅にいいとこ見せようと張り切ってルキノ・ヴィスコンティの小難しい映画を選んで寝ちゃったり、時代小説が好きで司馬遼太郎と藤沢周平で小梅(中身はパパ)とはからずも盛り上がったり、というのはすべて原作通りだ。映画青年である本物のシゲならヴィスコンティで寝たりはしないと思うが。
ドラマのこの場面は極めて原作に忠実なのだけれど、シゲ担が原作を読むときには健太の「俺もけっこう本読むの好きなんだよね」「だけど、周りに本読む奴いないじゃん? だから、川原が読書好きって聞いて、意外だけど嬉しいな。どんなの読むの?」というあたりのセリフにぜひにやにやしていただきたい。そのままシゲで脳内再生できるぞ。
そしてデート後、健太は小梅を家まで送るのだが、この場面は原作の方がいい!とはっきり書いてしまおう。好きな女の子をおそるおそるデートに誘い、退屈させなかったかな、楽しんでくれたかな、と気を揉む。その不器用で誠実な感じが、ドラマのシゲ以上にシゲっぽいのである。小梅の中のパパ目線で描写されるので、同じ男としてその気持ちはよくわかるぞ、という共感とともに描かれるのもポイントが高い。
第3回以降はドラマの展開にオリジナル要素が多くなり、原作にはない進路相談とかお泊まり旅行の相談とかサッカーの場面などが登場する。というか、原作では健太はこのデート回以降、ほとんど出番がないのだ。メールのやりとりと、一回一緒に下校しようと話しかける場面のみ。あとはエピローグで、元に戻った小梅と晴れて映画デートをするだけ。
なのでドラマでは原作よりかなり健太の登場場面が増えているわけで、それはファンには嬉しい改変だった。そしてこのときにはただの改変としてあまり気に留めていなかった場面──最終回で健太のペナルティーキックの失敗で試合に負ける場面や、そんな健太に小梅が「大人になったらうまくいかないことがいくらでもある。それでも必死にがんばってる」と告げる場面、そして小梅とパパが元に戻ったあと、それまでの態度と急に変わったふたりに戸惑う場面などが、実は2022年版に思わぬ形で引き継がれたのである。
■2022年版、長尾謙杜(なにわ男子)演じる健太は準主役!
そして謙杜くん版である。いやあ、大きく変えてきたな! もうメインキャストだ。タイトルバックの映像もパパと小梅と健太の3人だし。初回の最初のシーンから健太先輩登場するし、モテモテサッカー部員だし(観客席にうちわ持ってるファンがいたのには笑った)、なんと終盤には健太も入れ替わりを経験するし。これはもう「パパとムスメとケンタの7日間」とタイトル変えてもいい。
原作でも健太の見せ場であるデート回は22年版でも健在。映画じゃなくて盆栽美術館で、パパが盆栽マニアで喜ぶというふうに改変されていたが、デートそのものの展開は原作および07年版と同じ。このあたりはぜひ、シゲと謙杜くんそれぞれがどう健太を役作りしているか、その共通点や違いを見比べてほしい。司馬遼太郎で盛り上がるあたりはほぼ同じセリフを言ってるのに演じ方が違ったりしてて興味深いよ。謙杜くんも先輩と同じ役ってことでおそらく旧版を研究したろうし、工夫が見えるのも良き。
シゲ先輩が演じた「不器用&誠実」に対し、謙杜くんの健太はラブリーでデキる子! ザ・王子様感が前面に出てて、いやこの先輩ならパパもめろめろですわ。デートの場所に悩んで右往左往するキュートさから、パパの前での礼儀正しさに至るまで、いやもうこの子弱点ないな?
そんな健太の出番がぐっと増えた22年版は原作以上にラブコメ色が前面に出てて、第3回以降はほぼドラマオリジナルだった。これはもう原作まったく関係なくなってるなーと思いながら見てたわけよ。したらばさ! 確かに原作からは離れちゃうんだけど、07年版と妙な対比があるのに気づいたのだ。
たとえば07年版で小梅が健太に言った「大人になったらうまくいかないことがいくらでもある。それでも必死にがんばってる」というセリフは、(多少表現は違うが)22年版では小梅が親友の律子に言う。07年版では健太は大事な試合でペナルティーキックをはずすが、22年版の健太はまったく同じ状況で成功させる。07年版の最終回では小梅の手作り弁当を健太が食べる場面があるが、それに近い場面が22年版にも用意されている。これらはいずれも原作にはないわけで、22年版は原作よりむしろ07年版を下敷きにしたのでは思わせる演出が多いのだ。なのでここは原作・07年版・22年版の3つを比べてみることをぜひ推奨したい。
なお原作には『パパママムスメの10日間』(幻冬舎文庫)という続編がある。今度はママも混じっての入れ替わりだが、大学生になった健太先輩も出てくるので、シゲバージョン・謙杜バージョンで脳内再生しつつお楽しみください。
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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