大矢博子の推し活読書クラブ
2017/06/07

「リバース」クールな玉森裕太が体現するイヤミスの魅力[ジャニ読みブックガイド第2回]

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

 僕の事より君、僕といつでも君な皆さん、こんにちは。ジャニーズが演じた教師役といえば、誰を思い浮かべますか? 古くは「教師びんびん物語」の田原俊彦、最近だと「ごめんね青春!」の錦戸くん(関ジャニ∞)、「弱くても勝てます」のニノ(嵐)、「時をかける少女」のシゲ(NEWS)……まだまだいっぱいあるぞ。
 だが、これまで熱血先生から殺せんせー(え?)までいろんな教師を演じてきたジャニーズの中で、今、私たちは初めてのタイプを目にしている。美しくて冷静沈着、「え、この教師ってジャニーズなの?」と視聴者を驚かせ、「え、これがあの天然ゆるふわ玉ちゃんなの?」とファンを驚かせた、浅見先生だ。

■Kis-My-Ft2・玉森裕太出演!「リバース」

 ということで第2回は、現在放送中のドラマ「リバース」(TBS系)を取り上げよう。原作は湊かなえの同名小説。主演は藤原竜也さんだが、主要な人物としてキスマイ玉森くんが高校教師・浅見役で出演している。

 まず、原作とドラマの違いをチェック。
 原作小説の紹介からいこう。主人公の深瀬和久は、大学4年の夏にゼミ旅行で訪れた高原で親友の広沢を亡くした。遅れてきた村井を車で迎えに行く途中、崖から転落したのだ。事故として処理されたが、他の4人──村井、谷原、浅見、深瀬──の間には、誰にも言えない秘密があった。
 ところが3年経った今になって、4人の周囲に、彼らが人殺しであるという怪文書が届く。送ったのは誰なのか。なぜ今、あのことが蒸し返されようとしているのか……。

 というのが原作の設定で、ドラマでは卒業から10年後になっていたり、夏が冬になっていたり、事件を追うジャーナリストが出てきたり、遺体発見の状況が違っていたりという改変はあれど、初回は基本的には原作通りに進んでいた。ところが第2回以降、武田鉄矢演じるジャーナリストに「事故に見せかけた殺人」とはっきり言わせたのを皮切りに、原作にはない要素がガンガン入っている。いやあ、どうなるのかな、これ。


イラスト・タテノカズヒロ

■イヤミスにもいろいろありまして

 原作者の湊かなえは「イヤミスの女王」と呼ばれている。イヤミスというのはざっくりまとめてしまえば「読んでる間も読み終わったあともイヤ~な気分が続くミステリ」のこと。湊かなえと並んでイヤミス界を盛り上げた立役者が、真梨幸子と沼田まほかるだ。
 だが、湊・真梨・沼田の3人はそれぞれタイプが異なる。

 真梨幸子のイヤミスは、とにかく設定がイヤ。一家惨殺事件の生き残りの少女が殺人鬼になる『殺人鬼フジコの衝動』とか、オタク中年女性グループ内の妬み嫉みが事件につながる『みんな邪魔』とか、もう設定だけで「それ絶対幸せにならないやつですよね?」と泣きたくなる。
 一方、沼田まほかるは、残酷なストーリーもさることながらその描写がイヤ。たとえば『彼女がその名を知らない鳥たち』で、ヒロインがある男性のどこが嫌いかを微に入り細を穿ってネチネチ語るくだりなんて、語彙といい表現といい、フォントの間からイヤ汁が滲み出て「もうやめてあげて!」とこれまた泣きたくなる。

 真梨・沼田に比べると、湊かなえのミステリは設定も描写も「普通」と言っていい。だが物語が進むにつれて不穏になってくる。なぜなら湊作品は「この人、思ってたのと違う、もう誰も信じられない」という展開をするから。つまり湊かなえの「イヤ」は人物にあるのよ。確かだと思っていた足元がいきなり崩れるような不安。タシカナモノなんてない。これが湊かなえのイヤミスなのだ。

 ただ、湊作品の中では、『リバース』は少々異色である。これまで湊かなえは、複数の視点人物を使い、Aさんが見た事象をBさん側から見たら話が違う、みたいな手法で「信用できない」を演出してきた。ところが『リバース』は、最初から最後まで深瀬の視点のみ。とてもストレートな構成になっている。
 なのに「誰も信じられない」が加速する。そして最終的に最も「信じられない」のは誰だったのか、というのが本書のサプライズだ。読み終わってみたら、深瀬ひとりの視点で語られることに大きな意味があったのだとわかるよ。

 ところがドラマでは、原作にないゼミ仲間全員の裏事情を盛ってきた。深瀬の視点だけではなく、登場人物それぞれの視点で現在が描かれ過去が語られる。つまり「ひとりの視点で進む」というレアな湊作品を、「複数の視点で事件を描写する」という従来の湊テイストで再構成しなおしたことになる。このあたり、さすが『Nのために』のドラマスタッフだなあと思った次第。

■クールあさみんが見せるギャップ

 では玉ちゃん演じる浅見は信用していいのか?
 っていうかさ、いやあびっくりしたよね! キスマイの天然王子・玉ちゃんがめちゃくちゃクール。そりゃ顔立ちはキレイだけど、キャラのオトボケゆるふわ感が強くて、どうしても「可愛い」っていう印象だったのよ。それが! 玉ちゃんから天然を除くと、こんなに繊細で怜悧になるのか。走り方がブサ……げふんげふん、キュートな玉ちゃんと同一人物には見えない。ジャニオーラの見事な消しっぷりたるや!
 なぜだ。眼鏡か。あの眼鏡のせいか。ジャニーズにとって眼鏡は、いきなりドS執事になったり鍵が開けられたり事件解決に33分かけたりクール教師になったりする秘密道具なのか。学生時代と教師時代で浅見の眼鏡が変わったのは、何か違うキャラ装置がついてるからか。

 ただ、実はこのギャップがドラマの演出に生きているのだ。ドラマの浅見は徹頭徹尾クールなキャラとして描かれているが、ふと素が覗く瞬間がある。ここがポイント。

 職員室で泣き出した深瀬に「俺が泣かしたみたいじゃん、拭け拭け拭け!」
 牛丼は「つゆだくだくだく」
 みかん収穫を手伝って「手、放すの早すぎ!」
 そしてトドメの、頭ぽんぽん……。

 玉ちゃんだ!と喜んでる場合じゃない。クールな浅見がごくまれに見せる無邪気な顔。別荘で広沢に決定的な一言を告げたときのぞっとする冷たさと、無防備な素の表情。キスマイ玉ちゃんのファンにはクールな演技で驚かせ、初めて玉森裕太を知った人には無邪気な素顏で驚かせる。そのギャップで両方の視聴者が「どっちの顔がホント?」と思ってしまう。「人にはいろんな顔がある」というのは、この物語のテーマでもある。これもまた、玉ちゃんのイメージを逆手にとった、視聴者の信用を揺るがす演出なのだ。
 原作の浅見はここまで掘り下げられてはいない。けれど玉ちゃん演じる浅見は、『リバース』の「何を信じていいのかわからない面白さ」を体現した、重要な役なのである。

————
アンケート この探偵にはどのジャニーズ?【2】

johnnys_02-2

眼鏡がトレードマークの探偵といえば栗本薫が産み出した伊集院大介。『優しい密室』で教育実習生として初登場した。ひょろっとした長身、長い前髪のさらさらヘア、細い銀縁フレームの眼鏡。常に穏やかで温厚、いつもニコニコして相手の警戒心を解いてしまう。コーヒー大好き。弱点は寝起きが悪いこと。
今では品切れ本も多いけど、『絃の聖域』『伊集院大介の冒険』など、初期作は傑作揃いなのでぜひ探して下さい。
こんな伊集院大介を演じるなら……大矢のチョイスは八乙女光(Hey!Say!JUMP)!
あなたなら誰に演じてほしい?

————
2017/06/21
第2回アンケートの受付は終了いたしました。
「伊集院大介」を演じて欲しいジャニーズには1位が稲垣吾郎さん。2位はSexy Zoneのマリウス葉さん、3位は嵐の相葉雅紀さんとHey! Say! JUMPの中島裕翔さんが同数でした。前回も1位の稲垣さんはジャニーズ屈指の“名探偵キャラ”なのでしょうか。
アンケートの詳細は下記からご覧頂けます。
>> 第2回
多くの方のご参加をありがとうございました!
第3回は世界で最も有名なスパイ、イアン・フレミング原作の007こと「ジェームズ・ボンド」です。ご参加をお待ちしております!
>> アンケート この探偵にはどのジャニーズ?【3】

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

連載記事