滝沢秀明出演「ぬけまいる」タッキー演じる旅人は超有名なあの人
遥かな願いをこの手に強く包み込む皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、はからずも5連続時代劇・3連続タッキーとなりました。あと1ヶ月と少しと思うと寂しいけど滝沢歌舞伎の名前は来年も残るし、変わらず応援していきましょー!
■滝沢秀明・出演!「ぬけまいる」
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- ぬけまいる
- 価格:924円(税込)
現在NHKで放送中の土曜時代ドラマ「ぬけまいる~女三人伊勢参り~」、原作は朝井まかての同名小説『ぬけまいる』(講談社文庫)だ。
母親の一膳飯屋を手伝うお以乃は男勝りのがらっぱち、武家に嫁いだお志花はしとやかだが剣の腕が抜群、小間物屋の女主人のお蝶は色気たっぷりの美女。この3人、若い頃にはその名前から「馬喰町の猪鹿蝶」と呼ばれる名物娘だった。でも三十路になり、どうも最近パッとしない。それぞれ悩みもある。そこで3人、伊勢参りの旅に出ることに。
思い立ってそのまま出発した3人。親や主人の許可を得ずに抜け出して伊勢に参ることを「抜け参り」と呼ぶ。お金がなくても信心の伊勢参りなら沿道の人の助けを受けられる、というシステムが当時はあった。だがもちろん簡単ではない。猪鹿蝶の3人は早々に騙されて一文無しになり、団子屋を手伝って路銀を稼ぐことに。さらには手形を持っていないので、女にはことさら厳しい箱根の関所をどうにかして抜けねばならない。そんな旅先での出会いやトラブルを綴った、涙と笑いのロードノベルだ。
現在は11月24日の第4話(原作では第5章の半ば)まで放送済み。原作とドラマの違いといえば、まずは人物だ。大地真央さん演じる謎の女・お凛は原作には登場しないオリジナルキャラ。また、福士誠治さん演じる政は、原作には出てこないが原作の他の人物の役回りを部分的にカバーしている。だがそれ以外は、物語は(ここまでは)ほぼ原作通りに進んできた。
興味深いのはセリフだ。ドラマではより現代的に表現を変えた箇所が多々ある。たとえば第2話でお以乃が「湿気が多いと団子が傷みやすくなる」と言うが、原作では「団子の足が早くなる」だ。確かに「痛みやすい」の方が今は通じるだろうが、やっぱり古い言葉は味がある。「シカト」の語源が花札の場面に出て来たりもする。時代小説というのは言葉遣いも含めて、その世界が出来上がっているのだ。そこをぜひ原作で味わっていただきたい。
イラスト・タテノカズヒロ
■タッキー演じる「清水湊の長五郎」は実在の人物
さて、タッキーが登場するのはドラマでは第3話、原作では第4章に当たる。ドラマでは道中、乱暴者に絡まれたときに助けてくれたイケメンの旅人と宿で再会するという展開だったが、原作では宿での出会いが初対面だ。そのイケメンは「清水湊の米穀商・甲田屋の主人、長五郎」と名乗り、関所を抜ける方法を教えてくれる。どうやらホントは米穀商ではなく博打打ちらしいが、お以乃と長五郎は恋に落ちて──というのがここまでの話。
原作の長五郎の描写を見てみよう。この時の長五郎は30歳手前。猪鹿蝶との出会いの場面では「上背があり、目許もきりりと引き締まった二枚目」「男は日に灼けた鼻筋を指でこすりながら、三人を見回して笑った。整った面立ちが崩れ、少年のような照れが浮かぶ」などなど、魅力的な男前に描かれている。だが見せ場は、終盤だ。まだ放送されてないが、もし原作通りなら終盤の賭場の場面で、長五郎は大活躍する。原作は、こうだ。
「『見くびらないでもらいましょうっ』/長五郎はそう言って右肩に掛けた羽織を後ろ手で抜き、背後に高く投げ上げた。と、もう立ち上がって両の腕を広げている。ほんの少し身を傾げたかと思うと、落ちてきた羽織がすっと長五郎の背に納まっていた」
これはぜひドラマでもやってほしい。っていうかむしろ滝沢歌舞伎でやってほしいような芸である。さらに、この場面に続くセリフがまたカッコよくて、タッキー最大の見せ場となるはずなので、ファンは要チェックだぞ。そしてもしドラマでやらなかったら、タッキーを思い浮かべながら原作のこのくだりを読むべし。
ところで「清水湊の長五郎」って書いた時点でわかる人には「ああ、あの人ね」とわかるだろうけど、有名な通り名が初めて登場するのが、この賭場の場面なんだよね。だから、自明ではあるけれど、まだその名前は書かない方がいいだろうなあ。実はこの長五郎、フィクションであるこの物語において、唯一の実在の有名人なのである。ドラマでの手下の名前が「政」というあたりも、知ってる人はにやりとするところ。
■長五郎とタッキーの共通点
現実の長五郎は文政3年(1820年)、現在の静岡市清水区に生まれ、のちに甲田屋の養子となって店を継ぐ。だが博打と喧嘩が絶えず、ついに人を殺して弟分たちとともに出奔、無宿人(戸籍からはずされた者)となった。その後、諸国を旅した長五郎は、清水湊に戻って博徒一家を構えることになる。本作の長五郎は、ちょうどこの旅の最中にあたるという次第。
長五郎は多くの子分を抱え、子分たちにも慕われた。ある夏の夜、妻のおちょう(『ぬけまいる』のお蝶ではないよ、念のため)が出した蚊帳を「ひとつしかない蚊帳を自分だけ使うより、子分たちと一緒に蚊に喰われよう」と言って使わなかったという逸話もある。一家の結束は固く、その子分たちは後に「清水二十八人衆」と呼ばれて長五郎の脇を固めるようになる。まるでタッキーとJr.みたいじゃないか。
長五郎はただの博徒で終わらず、幕末の動乱のときには東海道筋・清水港の警固を任されたり、維新後は静岡茶の販路拡大に尽力したりと、土地の名士でもあった。その活躍は多くの講談や芝居になっており、中井貴一や高橋英樹、杉良太郎、中村雅俊といった大スターたちが演じてきた。もしもタッキーの引退が決まってなかったら、間違いなく長五郎は、義経や鼠小僧に続く滝沢歌舞伎の定番演目になったはずだ。それほどまでに有名で、見せ場が多く、Jr.に演じさせたいキャラの立った子分を多く持つリーダーだったんだから。
若い世代には馴染みが薄いかもしれないが、「寿司食いねえ、江戸っ子だってね」「神田の生まれよ」という掛け合いをどこかで聞いたことはないだろうか? 出典は浪曲だが、この会話の主は、長五郎の子分のひとりである。親分の長五郎を褒められ、嬉しくなって「寿司食いねえ」となったわけだ。なお、「馬鹿は死ななきゃなおらない」という有名な言い回しも、実はこの子分を主役にした浪曲の一節。かつて初代ジャニーズのあおい輝彦がドラマで演じたこの子分役、滝沢歌舞伎で演るならSnow Manの深澤くんで見てみたいな。
……っていうか昭和以来のジャニオタとしては「寿司食いねえ」って言われると別のセンサーが反応するんだけどね。長五郎がいなかったらシブがき隊の「スシ食いねェ!」はなかったんだぞ。タッキー演じる長五郎はジャニーズと意外なところでつながっていたのだ。
【ジャニーズはみだしコラム】
「ぬけまいる」の演出を担当する黛りんたろう氏は、これまで「義経」「雪之丞変化」「鼠、江戸を疾る」(いずれもNHK)でタッキーとタッグを組んで来た。特にタッキーが鼠小僧を演じた「鼠、江戸を疾る」は第2弾が作られるほど好評で、滝沢歌舞伎の演目にもなった。原作は赤川次郎さん。現在KADOKAWAから10作刊行されており、シリーズは今も継続中だ。
その第9作『鼠、地獄を巡る』が12月22日に文庫化される。巻末の文庫解説を私が担当し、その冒頭で、ドラマの後で鼠が滝沢歌舞伎の演目になったことを述べ、タッキーが若いファンを時代劇や時代小説に呼び込んでくれたことへの感謝を綴った。皆さんに手にとっていただけると嬉しい。今後タッキーを見る機会は減っても、鼠も義経も『ぬけまいる』も、『里見八犬伝』も『真夜中のパン屋さん』も『家族の旅路』も、そして来年放送予定の『孤高のメス』も、小説を読めば何度でもタッキーが蘇ってくるはずだから。
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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