大矢博子 ジャニ読みブックガイド
2019/08/14

重岡大毅演じる恋する営業マンがキュート!「これは経費で落ちません!」の魅力

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 喜びを抱いて泣いて笑って生まれてきた皆さんこんにちは。暑い日が続きますが、ジャニ成分をたっぷりとって乗り切りましょう。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラムでは、見てるだけで元気になる重岡大毅くん出演のこのドラマを紹介するよ。

■重岡大毅(ジャニーズWEST)・出演!「これは経費で落ちません!」(2019年、NHK)

 原作小説は青木祐子『これは経費で落ちません! 経理部の森若さん』(集英社オレンジ文庫)シリーズ。2019年8月現在、6巻まで刊行中だ。石鹸メーカー〈天天コーポレーション〉の経理部員・森若沙名子が、領収書や伝票処理など社内の経理事務を通して出会う事件を描いたお仕事小説である。と同時に、20代後半の森若さんが、仕事とプライベートをきっちり分け、自分ひとりの時間を大切に暮らす〈シングルライフ小説〉でもある。

 原作は連作短編の形をとっており、そのままドラマにした回と複数のエピソードを組み合わせた回があった。これまで放送された分の対応原作はこうなっている。

 重岡くん演じる営業マン・山田太陽が、私的なデートを経費で落とそうとしているのではないかと疑われる第1回は、原作第1巻第1話「これは経費で落ちません!」から。広報の女性の公私混同と正社員になりたい契約社員を描いた第2回は、原作第2巻第1話「取材は広報課を通してください!」と第3巻第1話「これは経費で落としてください!」の合わせ技。岡崎体育さんが小狡い営業マンを好演した第3話は、第3巻第2話「逃げるなよ? 絶対に逃げるなよ?」を下敷きにして、そこに第2巻第3話「気にしないでいいよ、おごるから。出張手当入ったから!」の要素を少し入れていた。

 そして予告編を見た限りでは、今週8月16日放送予定の第4回は第2巻第2話「女には女の戦いがある……らしい……」と第3巻第4話「困ったなー。仕事もらえるなら、貸してあげてもいいけど?」がブレンドされていると思われる。っていうか、原作各話のタイトルが楽しすぎませんかこれ。

 原作より事件を派手にしたり(第1回)、大人の解決でふんわり終わらせた原作をスッキリ大団円にしたり(第2回)という変更はあるものの、ドラマは原作のエッセンスをうまく取り入れている。原作では一旦決着したと思った事件が後になって別の短編で再燃したりすることもあるが(なので順番をとばさず、刊行順に読まれることをお勧めする)、そういった物語の間のつながりをドラマでは実に上手に組み合わせていた。


イラスト・タテノカズヒロ

■社会人の「身に覚え」と「憧れ」を刺戟する原作の魅力

 ドラマは基本的に原作のエピソードに忠実だが、事件とその解決・森若さんと太陽の恋の行方、という2本柱がはっきりしてコメディ色も強くなっている。もちろんそれはそれで面白いのだが、原作小説にはその2本柱に加え、もうひとつ、強く推したい魅力がある。軽やか&コミカルな筆致で人間のダークサイドを鋭く抉ってくる、そのテクニックだ。

 原作で森若さんが直面する事件の大半は、犯罪や明確な不正といったレベルのものではない。国税庁や巨悪と戦うわけでもない。森若さんが向き合うのは、もっと些細な狡さであったり、保身であったり、或いは人間関係を巡る策略であったりする。無意識の公私混同、自分の否を認めず絶対に謝らない人、相手によって態度を変える人、他人をコントロールしようとする人、正論しか言わない人。マウンティングにマンスプレイニング。読みながら、「うわーっ、いるいる!」という共感が7割、「自分は大丈夫かな? こんなことしてないかな?」という反省が3割。

 そんな、できれば関わり合いになりたくない人であっても、仕事なら付き合わざるを得ない。森若さんは経理という仕事を通して、そんな厄介な人たちと渡り合っていく。だが本書が面白いのは、正面から悪を斬る!という話ではないことだ。森若さんは、時にはやんわり釘をさすだけにとどめる。あるいは、上司に投げて自分は手を引く。余計なことはしない、経理の数字がきちんと合って、貸し借りなく、日々が平穏であればいいという、ほどよい匙加減の対応がむしろ気持ちいいのである。

 そうして森若さんは、マイペースを貫く。周囲の評判など気にせず、ダメなものはダメと言う。飲み会やランチに誘われても断り、自分のためだけに自分の時間をゆっくり使う。果たすべき責任はきっちり果たすが、自分の「心地よい暮らし」は譲らない。それがすごく素敵なのだ。そんな森若さんが、彼女に恋をした営業マンの猛アタックで少しずつ変わっていく過程も、ドラマよりゆっくり段階を踏んで描かれる。そんな原作ならではの魅力をぜひ味わっていただきたい。

 なお、本シリーズには姉妹編がある。同じ会社を舞台にした『風呂ソムリエ 天天コーポレーション入浴剤開発室』(集英社オレンジ文庫)だ。森若さんは登場しないが、『これは経費で落ちません!』でお馴染みの人物や商品が出てくるお仕事小説なので、併せてどうぞ。

■原作の山田太陽はさらに魅力炸裂! 重岡くんでジャニ読みしよう。

 さて、そんなドラマで重岡くんが演じるのは、明るく元気な若手営業マン・山田太陽。配役が発表されたとき、私は思わず「ぴったりだ!」と声をあげてしまった。原作の山田太陽が、そのまんま重岡くんに重なったくらいだ。

 原作の太陽は、お喋りで、明るくて、ちょっと抜けてるいじられキャラだ。初登場場面では、〆の作業が終わった後で経理部に領収書を持ち込み、「お願いしますよー。ちょこちょこっと操作するだけでしょ」などと、全国の経理部員が怒髪天を衝きそうな言葉を、悪びれず「自分の頼みが断られるとは思ってもいない、さわやかにして甘えたような顔で」口にした。

 だから初登場時の太陽の印象は(特に事務職経験者にとっては)最悪なのだが、そこから次第にわかってくる彼の人となりがとてもいいのだ。お調子者ではあるけれど、叱られたら素直に謝り、褒められたら素直に喜び、他人を嫌わず、ポジティブで、骨惜しみしない。森若さんとセルフサービスのカフェに入ったときは、ごく自然にふたり分のトレイを片付ける。相手の考えを尊重し、その上で一緒に楽しめる方法を探す。嘘をつかず、素の自分をさらけ出す。「自分が笑えば相手も笑う、自分が心を開くから相手も心を開く」という信念。

 そんな彼が森若さんに恋をして、まるで子犬のように彼女に向かって全開の笑顔で駆けて来る様は、読んでいるだけでニコニコしてしまう。もちろんお調子者ゆえの失敗もするし、気持ちがカラ回って森若さんに呆れられることもあるけれど、それも含めて、原作の山田太陽はとってもキュートだ。うん、これが重岡くんって、最高の配役じゃない? 

 残念ながら(ここまでのところ)、ドラマの太陽は「惚れた相手に振り向いてもらうべく色々頑張ってる」という役どころで止まっている。もちろんこの先はいろんな進展があるのだろうけれど、原作ではもっとたっぷりみっちり太陽の人となりが描かれるし、太陽視点の短編もある。元カノに迫られて困り果てたり、仕事のトラブルに慌てながらも見事に切り抜けたり、バレンタインデーに森若さんの手作りチョコレートを欲しがったり。おそらくドラマには描かれないであろう太陽のエピソードを、ぜひ重岡くんでジャニ読みしていただきたい。

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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