大矢博子の推し活読書クラブ
2023/05/10

木村拓哉主演「風間公親 教場0」、教場2の「衝撃のラスト」にどうやって繋がるのか…… 時系列と登場人物が変わることで原作ファンも楽しめる展開に

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 夢描いた瞬間をこの手で掴む皆さんこんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回は連ドラになって帰ってきた木村くんのこのドラマだ!

■木村拓哉・主演、濱田崇裕(ジャニーズWEST)・出
演!「風間公親 教場0」(フジテレビ・2023)

 スペシャルドラマとして2度放送された「教場」が、月9として連ドラで再登場だ。過去のスペシャルドラマは警察学校を舞台に、白髪隻眼の教官・風間公親が生徒に向き合う様子を描いてきた。警察学校で起きた様々な事件を通し、その事件の裏を風間が読み解き、当事者の生徒に退校を迫る。生徒の心の闇を炙り出すとともに、意外な真相に驚かされる搦め手のミステリだった。

 2021年の正月に放送されたシリーズ第2弾「教場II」のラストは衝撃的だった。まだ風間が教官になる前に起きた、彼が右目を失ったシーンが描かれたのだ。そして今回の連ドラでは時代が遡り、風間が神奈川県警捜査一課で若手刑事の指導員をしている時期が舞台となる。まだ右目はある。つまりこの連ドラのどこかで、あの「教場II」のラストの場面があるのだろう。

 原作は長岡弘樹「教場」シリーズから、シリーズ3作目『教場0 刑事指導官・風間公親』(小学館文庫)と5作目『教場X 刑事指導官・風間公親』(同)。ドラマと同じように(というかこちらが原作だが)、風間が教官になる前の、若手刑事の指導官だった時代を描いた連作である。ただしこちらは所在地を明示しておらず、神奈川県警というのはドラマだけの設定だ。

 原作の2冊にはそれぞれ6作ずつ短編が収録されている。ここまでの放送分のうち、第1回「硝薬の裁き」と第4回「孤独の胎衣」、第5回「妄信の果て」は『教場X』の、第2回「ブロンズの墓穴」と第3回「毒のある骸」は『教場0』の、それぞれ同名の短編が原作。ただし第1回の前半に登場したタクシー内での殺人事件は『教場0』の「仮面の軌跡」を元にしている。

 起きた事件とその真相は、今のところ原作通りだ。風間の指導を受ける若手刑事を語り手にした倒叙ミステリである。倒叙ミステリとは、最初に犯人とその犯行の様子が提示され、そのあとで警察が登場するという形式のもの。視聴者はすでに犯人を知っているわけで、警察がどのように犯人を追い詰めるのかを描いていく。その頭脳戦、心理戦が見どころだ。刑事コロンボや古畑任三郎、福家警部補といったシリーズを想像してもらえればいい。

 原作では県警期待の新米刑事が3ヵ月の任期で本部捜査一課の風間のもとに送られる。風間は指導官としてその刑事を鍛える任にあるが、その指導は決して手取り足取りといったものではない。むしろ放任に近く、黙って後ろに控え、新米が手がかりに気づけないときなどは「交番からやり直すか」という冷徹な一言をかける。何を考えているかわからない、だからこそめちゃくちゃ怖い指導官なのである。


イラスト・タテノカズヒロ

■時系列をずらしてきたドラマの意図は?

 ミステリという点では原作とドラマに大きな違いはない。が、その他の部分ではけっこう変えてきている。まず、主人公格となる若手刑事が、原作では毎回異なる人物なのに対し、ドラマでは2回にわたって(つまり複数の事件を)同じ若手が担当する。赤楚衛二さんや新垣結衣さん、北村匠海さんなどが演じている役だ。

 ドラマの彼らはそれぞれ事情を持ち(赤楚さん演じる瓜原はいじめと不登校の経験者、新垣さん演じる隼田はシングルマザー、など)、その事情が捜査に影響するエピソードや、捜査を通じて本人が成長する様子が描かれた。しかし原作にはそのような設定はない。彼らのキャラクターはドラマの完全オリジナルだ。ついでに言えば、堀田真由さん演じる事務員や、濱田くん演じる捜査一課の刑事も原作には登場しない(濱田くんにはこれから見せ場があることを期待!)。

 このあたりの人物の改変は、ミステリだけではない人間ドラマの要素を入れようとしているのだろうという推測がひとつ。もうひとつは、何らかの形で今後の、風間が右目を失って以降の展開をドラマオリジナルで用意しているのではないかという推測も成り立つ。なぜかといえば、時系列という点において、原作とドラマに大きな違いがあるのだ。

 原作では『教場0』の最終話「毒のある骸」で風間は右目を失う。そして『教場X』ではすでに義眼の指導員として登場する。「毒のある骸」はすでに放送済みだが、右目を失うエピソードは登場しなかった。原作ではその回に風間の指導を受けた女性刑事が、シリーズ別作品にも登場して風間と長く関わり続けるのだが、それに該当する人物がいない時点で先の展開が原作と変わってくる可能性が大きいわけだ。

 ドラマ「教場II」ではその現場に鳥羽暢照役の濱田岳さんが居合わせていたので、彼がそれに近い役を担うのかもしれない。が、そこで思い出して欲しいのが、第5回から登場した北村匠海さん演じる若手刑事、遠野だ。原作には登場しないが、ドラマの「教場II」に少しだけ出演していたのをご記憶だろうか? そして彼は確か、風間のあの事件の現場に……。

 ドラマでは、風間の事件の凶器である千枚通しが第3回に登場した。原作読者、そして「教場II」を見た視聴者はすでに予想しているだろうが、この連ドラのどこかであの事件が起きることをほのめかしている。原作では「毒のある骸」だったのにドラマはそうではない、となるとどのタイミングであれが起きるのか──それを予想しながら見るのも一興。遠野が登場したことでカウントダウンが始まった感がある。そこからは原作と大きく展開が変わってくるはずだ。

■原作を時系列順で読むと見えてくる、風間の人生

 ドラマも原作も、まずは風間の教官時代が描かれ、次に遡って刑事時代が描かれる──という構成になっている。ミステリアスな白髪隻眼の風間をまず印象付けておいて、「彼はどんな人なんだろう、なぜ隻眼なんだろう」と思わせてから過去を見せるわけで、すでにこの過去編が一種の謎解きになっているわけだ。実に上手い構成である。

 が、原作はさらにその上をいく。この3月に新刊『新・教場』(小学館)が刊行されたが、これは風間が刑事から警察学校に異動になった最初の年を描いたものだ。これまで刊行された6冊を内容の時系列順に並べ直すと、こうなる。

(1)『教場0』刑事指導官時代。最終話で右目を負傷する
(2)『教場X』刑事指導官時代。最終話で警察学校への異動を命じられる。
(3)『新・教場』警察学校に赴任した最初の半年。
(4)『教場』警察学校編
(5)『教場2』警察学校編・その2
(6)『風間教場』警察学校編・その3(初めて風間を視点人物にした長編)

 これを機に、ぜひこの順でシリーズを読んでみてほしい。なぜ右目を失ったのか。凄腕の指導官だった風間がなぜ警察学校に異動になったのか。そして警察学校での出会いと再会。時系列を行ったり来たりすることで、欠けたピースが少しずつ埋まっていく。『風間教場』のラストで風間はまた岐路に直面する。その流れを順に読むと、そこに浮かび上がるのは風間公親というひとりの警察官の人生だ。いや、まだ欠けている部分がある。『新・教場』のエピローグがそれを示している。

 ピースを埋める、というのは実はアイドルのファンにも言えることだ。自担をJr.の頃からずっと見てました、ということがある一方で、最近になって推しができたということもある。なんでもっと早く「見つけ」られなかったんだろう、と思ったりもするが、実は「遅れてきたファン」は「遡る楽しさ」を味わえるのである。一緒に時を重ねるのはもちろん至上だが、配信やレンタルDVDで過去の作品を見て「この頃こうだったのか!」とピースを埋めていく作業は実はなかなか新鮮。今なら同じ倒叙ミステリで木村くんが犯人役を演じた「古畑任三郎」を見返したいが……配信に入れてくれないかなあ!

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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