大矢博子 ジャニ読みブックガイド
2018/01/24

「美しくて怖い」香取慎吾の芝居 仮面の下の闇に注目!「ガリレオ」第4話

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 風通しいい感じありのまま伝えたい皆さん、こんにちは。前回の草なぎ剛編に続き、年始特別企画第2弾は香取慎吾編です。この特別編の趣旨については前回のつよぽん回の冒頭を読んでくださいね。
 ただ、いきなりのお詫び。実は頂戴したアンケートでは「蘇える金狼」が1位だったのです。わかる、わかるよあのアブナイかっこよさ……。けれどソフト化されておらず、手を尽くしたもののどうしても見ることができませんでした。記憶だけで書くわけにもいかないので、同系列の出演作の話も織り交ぜつつ、今回はこちら。

■香取慎吾・出演!「ガリレオ」第4話「壊死る」

 福山雅治さんが天才物理学者を演じて人気を博した「ガリレオ」(2007年、フジテレビ)は、東野圭吾『探偵ガリレオ』『予知夢』(ともに文春文庫)などを原作にした一話完結タイプのミステリドラマ。オカルトめいた事件の真相や科学知識を使った機械的なトリックを物理学者の湯川が見抜くという様式で、慎吾ちゃんは第4話「壊死る」で犯人役を務めた。原作は『探偵ガリレオ』に収録されている。

 だがこの回、原作とドラマはまったく別物だった。原作では、町工場で働く気弱で冴えない青年・田上昇一が、片思いの相手を助けるため「それを使えば心臓麻痺にしか見えない」という殺人機械を彼女に貸す。だが死体の胸の一部が壊死していたことから、疑問を抱いた警察と湯川が捜査に乗り出すというものだった。つまり田上は機械を貸しただけで、自分勝手な女に利用される暗いストーカーに過ぎない。

 ところがドラマでは、慎吾ちゃん演じる田上昇一が番組冒頭でいきなりその機械を使って女性を殺害。しかも彼は工員ではなくキラキラした大学院生で、湯川も一目置く新進の科学者という設定だ。真相を見抜いた湯川と、自らの能力に絶対の自信を持つ田上の〈天才対決〉がドラマの核となっている。原作と同じなのは田上の名前、殺人機械の仕組み、ブローチの手がかり、クライマックスが浴室ということくらいで、あとはまったく違う。

 原作を変えた理由はわからないけど、ドラマの第1話「燃える」が町工場の話だったから続くのを避けたのかなーとか、原作ではサブでしかない田上に慎吾ちゃんではもったいないからかなー、などと想像していた。だが番組を見て、もうひとつの可能性に思い至った。これは、過去の香取慎吾出演作を見た上での改変だったんじゃないかと。そのとき私の脳裏に浮かんだのは「沙粧妙子 最後の事件」だ。
 

イラスト・タテノカズヒロ

■〈立ち姿〉と〈表情筋〉で見せる仮面の演技

 慎吾ちゃんは、慎吾ママや「こち亀」といったキャラものや、三谷幸喜のコメディにも多く抜擢されていることもあって、一般には明るくコミカルなイメージを持たれがちだ。けれど私に最も鮮烈な印象を残したのは「沙粧妙子 最後の事件」での殺人犯・谷口役だった。たくさんの赤い薔薇に囲まれて水に浮かぶ18歳の慎吾ちゃんがぞっとするくらい綺麗で、うっとりするくらい怖かった。

 その後、「未成年」や「ドク」、そして「蘇える金狼」など、慎吾ちゃんはアイドルらしからぬ闇を抱えたアウトサイダーな役を重ねていく。特に「沙粧妙子」と「蘇える金狼」に共通するのは、最初に見せる顔とその奥に潜んでいる真実の顔の乖離だ。仮面をかぶっていながらも、その奥に底知れない何かがあると感じさせる芝居。慎吾ちゃんの場合、それが発揮されるのはセリフや動作ではない。立ち姿と表情筋である。

 それが「壊死る」で再現された。たとえば、茶葉をゴミ箱に捨てる時の動かない姿勢と何も見てない目。あるいは湯川と電話で話すときの奇妙に傾けた首。「蘇える金狼」や「沙粧妙子」でも見られた、向きなおる直前の瞼のわずかな加減。何かを話そうとする前の、首の筋のほんの少しの緊張。何気ない場面のふとした立ち姿やちょっとした間合いで、仮面に隙間ができる。だがそこに覗くのは素顔ではない。闇だ。あるいは虚無だ。いや、素顔が闇なのだ。香取慎吾の芝居は、そこが怖い。

「沙粧妙子」の谷口は仮面を鮮やかに脱ぎ、闇と虚無をさらけ出して身を投げた。「蘇える金狼」の朝倉は闇のさらに向こうに人間らしい揺らぎを垣間見せた。一方田上は、仮面もろとも闇に亀裂が入る瞬間を見せてくれた。湯川との対決の場面だ。自分が作った殺人機械の欠点を指摘されるにつれ、田上の仮面がどんどんひび割れ、剥がれ落ちていく。「5年もかかったんだ!」という抑えた本音が出たとき、彼は闇から人間に戻った。圧巻だ。

■他のガリレオ作品を〈慎吾の田上昇一〉で読んでみる

 さて、このコラムはファンの人に原作小説の読みどころを紹介する企画なんだけども(熱が入りすぎて忘れかけてた)、前述のように原作と映像はまるっきり別物なので、今回は趣向を変えて、慎吾ちゃんが演じた田上昇一で他の作品を当て読みしてみる、というのをお勧めしたい。

 短編集と長編併せて全8冊の『探偵ガリレオ』シリーズの中で、湯川が科学者及びそれに準じる立場の人と〈対決〉する作品が4つある。長編『容疑者xの献身』『禁断の魔術』(「猛射つ」を文庫化にあたり長編化)、短編「操縦る」「撹乱す」(ともに『ガリレオの苦悩』所収)だ。

 このうち「撹乱す」は湯川に人生を狂わされたと逆恨みしている元科学者が、絶対に証拠を残さない〈悪魔の手〉と呼ばれる殺人機械を考案して、警察と湯川に復讐しようとするもの。ドラマでは生瀬勝久が演じたが、設定といい殺人方法といいドラマ版田上にぴったりじゃないか。この犯人は随分と小物ではあるんだけど、〈慎吾の田上〉だと思って読むと不気味さ倍増なのでぜひお試しいただきたい。

 もうひとつ、長編『禁断の魔術』の登場人物・古芝伸吾を慎吾ちゃんで当て読みして欲しい。古芝伸吾は19歳だが、そこは脳内の話、その頃の慎吾ちゃんを浮かべて読めばいいのだ。名前もシンゴだし。
 でもってこの古芝伸吾がまさに、仮面をかぶっている役なのである。ただし仮面の奥に潜むのは、誠実で勉強熱心でお姉さん思いの優しい素顔。そんな青年が、ある事情で、冷たい仮面をかぶることになる。その仮面を湯川が身を呈して剥がす。

 アイドルとはそもそも仮面をつける職業と言っていい。慎吾ちゃんが芝居で仮面の奥に闇を覗かせるのが無性に怖かったのは、無意識のうちに、アイドルという彼のペルソナにそれを重ね合わせていたからかもしれない。けれど「壊死る」の田上は、仮面が剥がれたあと憑き物が落ちたような表情を見せた。それが嬉しかった。『禁断の魔術』も同じだ。仮面をはずした時、そこに笑顔がある──そんな慎吾ちゃんも見たいじゃない?

 なお、DVDを見返していたとき、どうしてもSMAP×SMAPの「ゴロレオ」が浮かんでしまって、柴咲コウさんの頭上に黒板が落ちる様を想像して笑い転げてたのは内緒だ。あれもう一回見たいね〜。


2017/02/07
第18回アンケートの受付は終了いたしました。

『ガリレオ』シリーズ初期の3冊で相棒を務める湯川の大学時代の同期である草薙俊平を演じて欲しい俳優には1位に稲垣吾郎さん、2位に草なぎ剛さん、3位に中居正広さんでした。
たくさんのご参加をありがとうございました!
第19回は、平安ミステリコミックの灰原薬『応天の門』。まだ若き学生のクールな秀才・菅原道真が探偵役、左近衛権少将のイケメンモテモテ中年・在原業平がワトソン役。頭がよくて合理的、謎解きを頼まれるのは面倒だけど、いざ考え出すとのめり込む。そんな若き菅原道真を演じるなら…。あなたは誰に演じて欲しい? 次回募集予定の在原業平とセットで考えてみてね。
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大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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