南沢奈央の読書日記
2017/06/23

戯曲、ときどき、かくれんぼ

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撮影:南沢奈央

 わたしは今、毎日ある本と格闘している。来月公演の舞台『カントリー』の脚本である。
 舞台の稽古が始まった。稽古はテーブルディスカッションを中心に進められる。シーンごとに声に出して読み、ひとつひとつの言葉の意味や、その裏にある意図を読み解いていく。そしてまた読む。情景をイメージする。読む。書かれていない部分のヒストリーを考えてみる。読む。演じる。これを繰り返す。読めば読むほど、台詞から、行間から、さまざまな真実が滲み出てくる。クセになる戯曲である。
 ただ、活字好きのわたしも流石にクラクラする作業である。ひとつの本に、一か月間、毎日7時間ほど向き合うなんて、舞台以外ではここまで費やせないから贅沢なことではあるのだけれど。家に帰ると、脚本以外のものを読む気力が残っていない。ふと気が付くと、スマホで動物の写真を見て、ニヤニヤしている。最近インスタグラムを開くと、わたしへのおすすめの投稿一覧に、犬猫の写真や動画を表示してくれている。閲覧傾向から、わたしに癒しが必要だと気を利かせてくれているのか。有難い機能である。

 疲れている時、余裕がない時、文章を読む気にはなれない。そこで手に取りやすいのは、写真集だ。だが今のわたしは、風景写真だと景色を見るように眺めてしまうので舞台のことをつい思い出してしまうし、芸術性やメッセージ性の強いものだと何かを読み取ろうと頭を使ってしまい、結果疲れてしまう。そんな時こそ、開きたくなる一冊がある。アンドリュー・ナップ著「モモはどこ?」である。
 モモは、キレイな顔立ちのとってもチャーミングなボーダーコリー犬。だがよくある犬の癒し系写真集と思ったら大間違い。モモがしっかり写っている写真はほとんどない。どういうことかと言うと、街並みや家の中などの風景の中で、モモがかくれんぼをしているのだ。しかも本気。ウォーリーを探せ並みに難易度が高いのだ。最後に答え合わせのページまである。わたしは、海と、コンテナのページで、二回モモに負けた。答えを確認すると、何食わぬ顔でこっちを見ている。完敗だ。

 「モモはどこ?」を開いていると、ひととき舞台のことも忘れ、知らず知らず没頭し、いつしか笑みがこぼれている。写真は何気ない日常の風景なのだけど、“モモがどこかにいる”ことで特別なものになっている。
 隠れているから、より見たいと思う。すぐに見つからないから、見つけた時にさらに愛おしく感じる。何だか、シンプルな会話の中に、たくさんの発見がある今回の戯曲のようである。結局舞台のことを考えてしまうのは、それだけ魅力的な戯曲だからなのだろう。

 ***

[編集部より]
南沢奈央さんが出演する舞台「カントリー」は7月12日~17日までDDD青山クロスシアターで上演される。主演は大空ゆうひ。共演に伊達暁。世界各地で公演されてきた舞台の日本初上演。男女三人の三角関係を描き、何通りもの解釈ができる、秘密が散りばめられた物語。南沢さんはある夫婦の関係を脅かすミステリアスな女を演じる。

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