南沢奈央の読書日記
2018/07/06

情熱2.0

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撮影:南沢奈央

 8000円。洋服や靴、バッグだって買えるし、本だったら何冊買えるだろう。いつもならそう考える。わたしは今、買う側ではなく、提供する側に立っている。
 “舞台”という、形に残らないものを、8000円で買ってもらう。買ってくれた人は、ドラマや映画では味わうことのできない、役者とスタッフが生で作り上げていく作品を目の当たりにするという体験に価値を見出しているのか。それとも、好きな俳優さんと同じ空間で同じ時間を過ごせるからと、来てくれるのだろうか。
 今、この文章を読んでくれているあなたはどうですか。
 
 たびたびわたしは、物欲がないことについて考えている。ちっともないと言ったら嘘になるかもしれないけれど、10万円あったら、物を買うよりも旅行に行きたい。落語やプロレスを何度も見に行きたいし、本を読んでひたすら物語の中に入っていたい。つまり、わたしは物よりも“経験”にお金を払いたい。
 自分がどんな時にお金を使うのかを考えてみると、どんなものに価値を見出しているのかが見えてくる。
 ある日、ゆっくりと読書をしたいわたしは、300円ほどの立ち食い蕎麦で昼食を済ませ、近くの少し高級な喫茶店に入り、一杯900円のコーヒーを注文した。お腹を満たすことよりも、読書をする環境に価値を見出し、そちらに3倍以上のお金を払った。逆に、友達とご飯に行く約束をしていて、待ち合わせまで時間が少しある時には、200円のコーヒーが飲めるカフェに入り、夜は、美味しい料理、友達との時間、寛げる空間にお金を払うことを惜しまない。その時の自分が求めているものに見合えば、対価を払う。

 『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』を読んだ。とても面白かった。考えさせられたのは、“価値”についてだ。
 社会の変化はイコール、価値の変化である。今、あらゆるテクノロジーの進歩によって、経済の在り方と共に価値の概念が大きく変わってきている。もちろん、自分自身の価値も例外ではない。
 本の中で挙げられている、「貯金0円、ツイッターフォロワー数100万人以上の人」の例は分かりやすい。その人が何かをやりたいと思った時に、“他者からの注目”という自分の価値を利用することができる、という話だ。ツイッター上で声を掛け仲間を募り、知恵を借りることもできるし、さらにはクラウドファンディングで資金も調達することができる。ネットの普及で自分の価値をどんな方法で保存しておくか、選べる時代になってきているという。
 今までお金にはなりにくかった価値が、こうして変換できるようになってきている。1億円の貯金があることと100万人のフォロワーがいることのどちらが良いかという問いに、即答できる人はどれくらいいるだろうか。

 先日ラジオ番組で、著者である佐藤航陽さんとご一緒した。「佐藤2.0 これからやってくる価値主義」というテーマで、“お金の先にある生き方”を考えた。この佐藤さんとの時間に、「タイムバンク」を利用してお金を払いたいくらい、とても有意義だった。(今週日曜9時からのJ-WAVEのオンエアをお聴き逃しなく!)
 資本主義から“価値主義”に移り変わっていく中で、“ハッピーに生きるには何が必要か”という問いの答えがとても印象的だった。
それは、「恐怖と情熱」。自分が何を恐れているか、何に躊躇しているかに注意を払うと、やりたいことや必要なことが鮮明になってくる。それが情熱に繋がっていく……。
 これからの生き方を考えていく上で、自分の価値と向き合っていく必要がある。きっとこれは、時間をいかに使っていくか、どこに情熱を傾けていくかによって変わってくることなのだろう。
 わたしはその話を聞いた時、今一番恐れていることがすぐに思い浮かんだ。少し恥ずかしかったけれど、それを口にした後、自分がどうしてここまで舞台に情熱を注げているのかが分かったのだ。
 その舞台が、今日幕を開ける。チケットを手に来てくれるお客さんに、心に残るような“価値”を、情熱を通して届けたい。

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南沢さんが出演する舞台「ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル」の東京公演は7月6日(金) ~ 22日(日)紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて、大阪公演は8月4日(土)サンケイホールブリーゼにて行われます。
http://www.parco-play.com/web/program/wbts/
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