南沢奈央の読書日記
2021/12/24

お年玉準備中

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク


撮影:南沢奈央

 お年玉、どうしようか。
 自分はとっくにもらえない年齢になっているが、あげる側になった。実家でゆっくりするというお正月の過ごし方はそう変わらないのに、いよいよそんな考えを巡らせる立場になるとは。
 姉と弟のところに、姪っ子がひとりずついる。まだ1歳と2歳。お年玉っていつ頃からあげればいいのだろう。渡してもわからないかもしれないけど、何かはあげたい。お金をあげてもという気もするから、代わりに、使えるおもちゃなどをあげたほうがいいのだろうか。どうしようかと、両親に相談する。
 そういえば、子どもの頃、母方のおじいちゃんおばあちゃんの家に行くと、お年玉をたくさんもらえた。まずおじいちゃんからもらい、母が4人姉妹なのでそれぞれの一家からもらい、さらに従兄弟たちと一緒に近所をまわって挨拶をして、お年玉をもらった。
 帰ってくると、さらに特別お年玉をかけたゲームが始まる。それは大人子ども関係なく、全員が参加して、勝負をするのだ。ある時はバスケのフリースロー対決、ある時はトランプ。両親や叔父さん叔母さんたち全員が一生懸命になってゲームで勝負をし、お年玉をゲットした叔父や叔母がはしゃいでいる姿などが記憶に残っている。とても楽しい思い出だ。全員を楽しませる、おじいちゃんの粋な計らいだった。

 わたしも「ただお金を渡すのではなく、相手が驚いたり喜びが倍増したりするような方法やテクニック」を考えたい。ちょうどお年玉をどうしようかと悩んでいるときに、小山薫堂さんの『妄想浪費』を読んで、より思った。
 お父さまのお年玉の渡し方の凝りようもすごく印象的で、高校生のときに1センチくらいの分厚い封筒を渡されたことがあって、中を見ると、100円紙幣100枚だったそうだ。逆に、お年玉が1枚のコインだったときには、なんだ小銭かと思ったら、10万円金貨だったそうだ。
 こういった小山さん自身が受けた素敵なサプライズの経験を絡めつつ、この場面でこういうお金の使い方をしたら素敵なのではないか、という「上質な浪費」を妄想したのがこの本だ。お金を使うことで、「人を喜ばせる」妄想に満ちているから、「上質」と呼べる。
 この時期だからこそもう一つ響いたのは、年賀状のはなし。趣味が手書きの年賀状を送ることだという、京都の企業の社長さんがいらっしゃるらしい。友人や仕事関係者だけでなく、一度会って食事をしただけの人にまで送るというのを25年以上続けられて、今では4300人を超えたという……。年始から書き始めてもすべて書き切れるのかと疑うほどだが、その社長さんは8月末あたりから毎日の日課にして手で書く。いまや10枚くらいしか書かなくなってしまったわたしとしては、もう尊敬の念しかない。
 それが実現できている理由が、父親から「たった一枚の年賀状で友情が続くから書くように」と勧められたから。実際わたしも、小学校5年生のときにたった1年だけ塾で同じクラスだった子と年賀状でやり取りを続けたことで、わたしの舞台に観に来てくれたりするほどの関係でいまだに繋がっているから、実感はある。だけど分かってはいても、それを実行して継続していられることに頭が下がる。
 この本で紹介されている、小山さん自身の経験や名だたる企業のみなさまの素敵なエピソードをそのまま真似してやることはむずかしくても、人を喜ばせたいという気持ちや、感謝を伝えたいという姿勢は見習わせていただきたい。そんなことをテーマに、2022年を過ごしてみようと思う。早速、姪っ子へのお年玉からスタートだ。

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク