南沢奈央の読書日記
2018/07/13

ドキドキしちゃう

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撮影:南沢奈央

 挑みたい、と思うから、わたしは舞台に立っている。
 何に対してか。作品に? 芝居に? 観客に? いや違う、わたしが挑みたいのは、自分自身なのだと思う。
 かっこつけたことを冒頭から言っていて恥ずかしくなるけれど、この一週間、これまで9回の公演を通して、自分と向き合っている実感がある。今日の自分はどれくらい緊張しているか、声の調子はどうか、体のどこが疲労しているか、テンションは上がっているか、感情を出せているか、集中できているか。毎公演、大きく変わる。昼と夜でも全然違う。舞台に上がってみないと、分からない。『ドキドキしちゃう』。
 岡本太郎の「挑む」心を、書と言葉から、受け止める。
<ぼくは闘うことによって、相手を手ごたえとして掴みたい。それが架空の敵でも、そう設定し、ぶつかる。自分の精神のまとを絞り、人と向きあう。それは自己確認でもあるのさ>

 自己確認は、正直苦しくなる。その時出せる全力でやっているのに、自分の弱さや出来なさばかりが見えてくるから。自分の良いところなんて、ほとんど見えてこない。だから自己嫌悪に陥る。こんなわたしが芝居をしていいのか……。かなり気が滅入るときもある。
 それでも公演は続く。そしてその自己嫌悪を払拭するには、やはり舞台に上がるしか方法はないということにも気づかされる。すると「猛」烈に、芝居をしたくなる。
<自分が興奮しなきゃいけない、自分がそれに追いついていかなきゃいけない、努力しなきゃいけない、何か安心して見られない、したがって何か抵抗を感じる。それをぼくは芸術だと思う。だから芸術というのは、ここちよくあってはいけない>
 「猛」という岡本太郎の書のように、わたしも内側からエネルギーが燃え上ってくる。ページをめくるたびに圧倒され、胸が熱くなる。
 表現者は、滾るエネルギーを持ち続けていなければならないと思い知らされる。
 そして、「爆発」させねば。黒い「爆発」を取り巻く、赤、黄色、緑、青。
 ドキドキと、胸が高鳴っている。
 残り13公演。今から10回目の公演が始まる。今日のわたしはどんなわたしになるだろう。
 猛々しく爆発すべく、舞台に上がる。

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南沢さんが出演する舞台「ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル」の東京公演は7月6日(金) ~ 22日(日)紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて、大阪公演は8月4日(土)サンケイホールブリーゼにて行われます。
http://www.parco-play.com/web/program/wbts/
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