南沢奈央の読書日記
2017/07/14

安心をください

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撮影:南沢奈央

 ああ、お腹が痛い……ストレス?キンチョー?
 腹巻でも巻きたい。もっと欲を言えば、お気に入りのぬいぐるみやクッションをお腹の前で抱えられたら、少しは安心できるだろうに。
 舞台初日、ゲネプロを終え本番を控えたわたしは鏡の前で、すでに完成しているメイクと髪型、そして破れるほど読み込んだ台本を何度も確認しながら、お腹をさすっていた。演じる時はいつも、「楽しもう」と心掛けているのだけど、今回はまだ巨大な不安に“楽しみ”が完全に隠れてしまっている。一体どこでしょう、わたしの“楽しみ”。手は震えるし、汗はかくし、お腹は痛いし……とにかく落ち着かない。ホッとしたい。安心が欲しい。

 すると、わたしの頭の中にライナスが現れた。
 「Security is knowing all your lines.」(安心はセリフを全部憶えていること。)
 とてもリラックスしていて、力の抜けた顔で、わたしに声を掛けてくれる。
 不安な夜によく眺める一冊、『スヌーピーの安心は親指と毛布』の中の言葉の一つだ。
 そうか、一か月間稽古を重ね、セリフを全部憶えているのだから、安心していいんだ。そう思うと、何だか急に気持ちが落ち着いてきた。そしていつの間にか幕は開け、いつの間にか客席から拍手をいただいていた。そして舞台から下りて、共演者の大空ゆうひさんと伊達暁さんやスタッフのみなさんと、笑顔で「お疲れ様でした」と言い合った。演出のマーク・ローゼンブラットさんが嬉しそうにハグをしてくれた。観に来てくれた方が「新しい奈央ちゃんが見られた」と言ってくださった。そして、家族と顔を合わせた。
 拍手、笑顔、ハグ、お客様の言葉、家族。安心の材料をかき集めて、昨日も今日も舞台に上がった。
 真っ暗な袖に来ると、急に孤独を感じて怖くなるけれど、その時にはまたライナスの言葉を思い出そう。
 「Security is knowing you’re not alone.」(安心は自分ひとりじゃないと知っていること。)
 わたしは、明日も明後日も舞台に上がる。

 ***

[編集部より]
南沢奈央さんが出演する舞台「カントリー」は7月12日~17日までDDD青山クロスシアターで上演される。主演は大空ゆうひ。共演に伊達暁。世界各地で公演されてきた舞台の日本初上演。男女三人の三角関係を描き、何通りもの解釈ができる、秘密が散りばめられた物語。南沢さんはある夫婦の関係を脅かすミステリアスな女を演じる。

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