南沢奈央の読書日記
2020/03/06

心の旅

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撮影:南沢奈央

 先日、中学時代の同級生と集まった。
 誘ってくれた3人は、最近よく集まっては本や映画などについてただお喋りしているという。
 一人は、小学生の時にはお互いの誕生日会に呼ぶような仲の良い女の子で、でも連絡先も知らず、下手したら学校以外で会うのは小学生以来かもしれない。卒業後も連絡を取り合っていたのは、中学の同じバスケ部で交流があった男の子。もう一人は、クラスは一緒だったけどほとんど話した記憶のない男の子。明るくて物怖じしないタイプで、当時はどちらかというと、取っつきづらいなぁと思っていた。
 わたしは中学時代の記憶が曖昧だ。だから正直、集まって何を話せばいいんだろうと不安だった。だが、もうみんな大人だ。お酒を飲んで、楽しく近況報告をし合えたらいいかなと思いながら、予約してもらったお店に行った。
 ビュッフェスタイルのレストランだった。しかもサラダバーがメインなので、言ってしまえば飲みに来るような場所ではない。
 ひとまずビュッフェで山盛りのサラダとドリンクバーでソフトドリンクを入れて、席に着いた。わたしはワインを1杯だけ注文させてもらったのだが――
「閉店ですよ」
 店員さんに声を掛けられて時計を見たら、なんと5時間以上経っていた。みんなお酒も飲まないし、近況報告も特にせず。最近読んだ本の話、面白かった映画の話。
 そして何より、中学時代の話が出てくる出てくる。誰かの話を聞いては誰かが思い出してまた話す、の繰り返しで、尽きることがなかった。
 不思議なものだ。普段は思い出したくてもなかなか出てこない記憶が、その時代の友達と一緒にいるだけで次々と思い出される。というか、中学時代の記憶の蓋が開けられたような感覚。思い出そうとしなくても見えてくる。ボックス席にいるわたしは、身体ごと中学時代にタイムスリップしたみたいだった。

 和山やまさんの『夢中さ、きみに。』を読んでいるときも、同じような感覚になった。漫画で描かれている学校生活のどこかに、自分もいるような。体験したことがあるような。
 中高生、主に男子たちの学校での日常を描いた短編作品集である本書を一気読みしたのち、つい声を出してしまった。
 ああ、キュンキュンしちゃった!
 中高生の日常は、青春そのものだ。
 この漫画を知り合いの方からいただいた瞬間、まず表紙の男子に一目惚れ。半袖シャツの制服姿で、首筋には汗をしたたらせ、眼鏡の奥は鋭くも澄んだ目。そして太い眉。かっこいい。ちなみに、その子の背景に、おちょぼ口にして鼻の下にペンをはさんでふざけている短髪男子がぼんやり描かれているのも良い。こういう人、クラスに一人はいたなあ。
 とにかくわたしは、表紙を見ただけで、和山やまさんの絵に夢中になってしまった。全体的に、中高生の幼さの中にどこか色気を感じさせる描き方をされていて、一方でユーモアもある。
 そもそも本書は、チューリップの「夢中さ君に」(名曲!)からヒントを得て、“私も誰か夢中になるようなキャラクターを描いてみたい”と、このタイトルで作ったのだとか。
 まさにそれを実現した一冊だと思う。どの登場人物も本当にそれぞれ個性があって、魅力的なのだ
 夢中になっちゃうキャラクターばかりなのだが、わたしは特に、男子高校生・二階堂くんが堪らなくツボだ。まず登場シーンからしてかなり強烈。二階堂くんだけ明らかに絵のタッチが違う。「ジメジメした不気味なオーラをまとい 不良やパリピの生徒もあまり奴には近寄らないほど忌み嫌われている人間」を見事に表現している。
 清掃の担当場所が一緒になった目高くんがひょんなことから二階堂くんの過去を知り、何となく仲良くし始める。すると、基本、ひどい猫背で目の下にクマを作って負のオーラが出まくりの二階堂くんが、徐々に色んな表情を見せ始める。
 そしてついに目高くんが引き出した、笑顔が堪らない! 男子同士で距離を縮めていく様子も含めて、キュン! 友達になっていく過程ってドキドキしたよなあ。仲良くなりたいと思った相手の笑顔が見れた瞬間、とても嬉しい気持ちになるんだよなあ。
 恋愛とかじゃなくて、青春にときめく。それは、もちろん漫画のストーリーでもそうだし、あぁ昔こんなことあったなぁという自分の懐かしい思い出とどこか重ね合わせて、心が動いたのだろう。
 まるで、タイムスリップして青春の旅をしてきたみたいだ。
 気が付けば3回繰り返して読み、夜が更けていた。ああもう夢中さ、きみたちに。

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