南沢奈央の読書日記
2022/01/07

レインメーカーの時代

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撮影:南沢奈央

 わたしにとって、一年が終わったとも、一年が始まったとも思わせてくれるのが、イッテンヨン東京ドームだ。
「イッテンヨン」というのは、1月4日のこと。ここ数年は、イッテンヨン、イッテンゴの2日間になっているが、毎年その日に東京ドームで新日本プロレスの一年(前年)の総決算ともいえる大会が行われる。
 今年もイッテンヨンに行ってきた。アントニオ猪木さんからのメッセージから始まり、かつてタッグを組んでいたふたりが分裂してから初めての因縁のシングルマッチだったり、怪我で5年弱欠場していた選手の奇跡の復活戦だったり、ベルトをかけた火花散る戦いが次々繰り広げられた。
 大トリであるメインは、IWGP世界ヘビー級選手権試合。ベルトを持つ鷹木信悟選手にオカダ・カズチカ選手が挑戦し、熱戦の末、オカダ選手が勝利。新チャンピオンとなった。そしてこの勝者が翌日のメインで、ウィル・オスプレイ選手の挑戦を受ける。つまり、2日連続で東京ドームのメインの試合をやるというかなり過酷な対戦スケジュールである。そこで見事勝利を収めたオカダ選手。ぼろぼろになっているはずなのに、試合後にもリングの真ん中に凛々しく立つ王者の姿に心底感動し、奮い立たされたものだ。
 お金の雨が降るくらい稼ぎまくる存在として“レインメーカー”と称して、超人的な身体能力と圧倒的オーラを持つ、最強のオカダ・カズチカ。実はわたし、大阪まで行ってサイン会に参加したことがあるほどファンである。ここからは、「オカダ」と敬意を込めて呼ばせていただきたい。
 初めて見たときの、あの華。存在感。そして191センチ、107キロという大きな身体を軽やかに動かし、スピードとキレのある技を繰り出す様子に、目を奪われた。そして何度倒れても歯を食いしばって立ち上がる姿を見て、全身に血が巡る感覚があった。

 とにかく、強い。その強さは、恵まれた天性のものだとずっと思っていた。だが、昨年末に出された『「リング」に立つための基本作法』を読んで、努力の人だということがわかった。身体、心を鍛え、人間力を鍛えるために普段心がけていることなど、オカダ流人生の極意が綴られている。
 失恋や家族の話もあれば、ベルトに対する思い、修業時代の話や今の目標などもある。いかに普段自分をストイックに追い込んでいるか、いかに他人を楽しませようと考えているか。
 プロレスラーとして“華”が必要だと考えて、自分をプロデュースする。今や、新日に限らず「プロレス界の顔」になっているオカダだが、「顔」でいるための努力と意識が凄い。“レインメーカー”として、どう振る舞ったらかっこいいか。タイトルマッチの日にはスーツを着て会場入りするとか、真っ赤なフェラーリに乗ったり、ブランドのスーツケースを持ったり。コスチュームはとにかく派手なものにし、ビックマウスで貫く。一目見るだけで、只者ではないオーラががびんびんに伝わってくるが、それはすべて意識して作られたものだという。言うまでもなく、今は内から滲み出ているものが大きいが、初めは自分でも慣れないことでもあえて外から華を作っていったという。それが見事成功している。
 また、より強くなるための努力も惜しまない。コロナ禍で試合がしばらくできない間に、チャンスだと身体改造したり、試合した日でも帰宅したらプロレスを見て研究しているというのには驚いた。新日だけではなく海外や他団体の試合も見るそうだ。「おおー!」と見ながら声をあげることもあるというから、やっぱり根にはプロレス好きの少年のような一面があると知って、すてきな話だなと思った。
 経験で培ったオカダ流の身体と心の鍛え方には、説得力がある。そしてオカダが今、誰よりも強くて誰よりもかっこいい理由がわかった気がする。
「声援がある中でプロレスがしたい」
 イッテンゴでオカダは涙しながら思いを語った。その真っすぐな言葉から、オカダが今背負っているものの大きさも見えてくる。
「50年先まで、新日がオカダで食っていけるように頑張っていきます。新日にカネの雨が降るぞー!」
 自分が試合に勝つことやチャンピオンになることよりも、もっと先を見据えているオカダ。かっこいいに決まっている。
 2022年は新日本プロレス旗揚げ50周年イヤー。この本のラストでも「僕の年にする準備は整った」と語る。そして宣言通りイッテンヨン、イッテンゴで連覇し、レインメーカーの時代、そしてプロレスの時代の幕が確かに開いた瞬間を目撃できた気がする。

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