南沢奈央の読書日記
2020/12/25

少年たちのメリークリスマス

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撮影:南沢奈央

 今日はクリスマスだ。
 “特別な日”という感覚は、悲しいかな、年々薄れていっている。街のイルミネーションを見ればもちろん綺麗だなぁと思うし、チキンやケーキを食べる理由になるから、好きな日ではある。が、イルミネーションを見るのもケーキを食べるのも、正直この日じゃなくていいことだ。
 子どもの時には、クリスマスを心から楽しみにしていた。
 12月の頭あたりから、プレゼントのリクエストを書いたサンタさんへの手紙を用意し、カウントダウンをするようにクリスマスを待った。マンションに住んでいたから、サンタさんが入ってこられるか心配しながら、イブには夜空を見上げてサンタさんが早めに来ていないか、探した。
 毎年、「今宵こそはサンタさんに会うぞ」と決めても、いつの間にか深い眠りについている。そして不思議といつもより少し早めに目が覚め、枕元を見ると、プレゼントが置かれていた。寒さなんて忘れて布団から飛び出して、大喜びで家族みんなに見せたっけ。
 クリスマスプレゼントをもらうことしか頭になかった頃が、懐かしい。
 いつからだろう、もらうことよりあげることを考え始めたのは。
 今年も、クリスマスに仕事で会う方々に何をあげようかと考えていた。舞台の稽古で顔を合わせる共演者の二人へのプレゼントを買いにお店へ行くと、わたしが口コミで聞いてずっと欲しいと思っていたヘッドマッサージ用のブラシをちょうど見つけ、即決。よし、ついでに自分へのクリスマスプレゼントだ!と一緒に買おうとしたが、残念ながら商品が二つしかなかった。
 その時に湧きあがったのは、自分が欲しいという思いより、人によろこんでほしいという思いだった。
 自分がもらうことを考えなくなったのは、人がよろこぶ姿によろこびを感じるようになってからかもしれない。

 そんなことにふと気づいたわたしが、今年のクリスマスシーズンに読んだ一冊は、エーリヒ・ケストナーの『飛ぶ教室』。
 クリスマスの物語を描いた名作と言えるが、良い意味でクリスマスの物語のイメージを覆すような作品だ。
 本書はドイツの寄宿学校の少年、5人をメインに描かれていく。「飛ぶ教室」というのは、彼らがクリスマス祝いのために稽古している劇のタイトル。その劇は“波瀾万丈のクリスマス劇“と説明されているが、本書自体が”波瀾万丈のクリスマス劇“である。
 とにかく、さまざまな事件が起きる。一人の少年は他学校の生徒に拉致されてしまい、救うために雪合戦で戦うことになったり、臆病者と言われていた一人の少年が傘を持ってはしごから飛び降りてしまったり、みんながクリスマスの日に実家に帰っていく中、お金がなくてひっそり学校に残ることになった悲しい少年がいたり……。心躍るクリスマスシーズンのはずが、少年たちに次々と試練が降りかかる。
 だが、そういった少年たちの身に起こる事件を通してケストナーが伝えたかったことは、前書きに示されていた通り。
〈人生に大切なのは、何を悲しんだかではなくて、どれほど深く悲しんだかということ〉。
 ケストナーが読んで腹立たしいと言う児童文学――〈子どもというものはのべつはしゃいでいて、幸せのあまり、どうしていいかわからないもの〉と信じ込ませようとする本――とはおそらく意図的に差別化を図っている。わざわざそのことを前書きに書くくらいだから、そうだろう。
 困難に出会い、悩み、悲しみ、考える少年たち。同時に描かれるのが、彼らの「勇気」だ。困難から抜け出すために勇気を出して一歩踏み出し、自ら成長していく姿にぐっとくる。
 いよいよクリスマスの日を迎える最後の2章も、また空気がガラリと変わって良い。そわそわから、ワクワク一色になる。クリスマスという日だからこそ、行き交うやさしさ。溢れるよろこび。きっと、クリスマスその日に、それぞれがそれぞれの幸せなクリスマスを過ごしたのだろうと想像するだけで、心がほっとあたたまる。
 そうして少年たちに気づかされる。
 メリークリスマス、は今日しか言えない。

 ***

南沢奈央さんが出演する舞台「アーリントン」はKAAT神奈川芸術劇場・大スタジオにて2021年1月16日(土)から31日(日)まで上演されます。
https://www.kaat.jp/d/arlington2021

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