南沢奈央の読書日記
2017/12/22

大晦日に向けて、夢を買う

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撮影:南沢奈央

 この時期になると、南沢家はお金を出し合って、夢を買う。
 1億円当たったら何に使おう……。誰しも考えたことが一度はあるだろう。
 だがこれは、高級マンションのチラシの間取り図を見ながら、ここに住んだらこの部屋を誰が使って、どこに何を置いて……と妄想するのと同じだ。実際には実現しないだろうと思いながら、妄想している。だからこそ無限に、もしくは無責任に妄想が広がり、考えているだけでワクワクするのだ。それで十分なのだ。夢を、買っているのだから。
 そのくらいの気持ちの人間が、当たってしまったら。
 32歳の平凡なサラリーマンが、突然2億円を持っちゃったら何が起きるか。それを見られるのが、安藤祐介さんの『宝くじが当たったら』だ。

 一等2億円が当たった新堂修一は、どういう気持ちだったか。
 喜んでもいなければ、浮かれてもいなかった。実際手にしてしまうと、年収400万円の彼は、2億の使い道という夢を描き切れず、困惑していた。会社を辞めたいとも思わないし、家や車を買いたいとも思わない。運用をして増やしたいとも思わない。
 もはや恐怖さえも覚えている。100万円を親友に貸してどちらも消息不明になってしまったという過去があり、またこの2億円によって何かを失ってしまうのではないだろうかと。だから誰にも当選したことは言わずに、仕事始めを迎える。
 だが、この大きすぎる秘密を一人で抱えていられるわけもなく。信頼する家族に話したところから、彼の人生は自分ではコントロールできないほどに、目まぐるしく変化していく。
 2億円が当たった事実が広まると、どうなるか。
 急に親戚が現れる。支援団体を名乗る団体から電話が掛かってくる。2チャンネルに自分のページが立ち上がる。会社の社長に怒られる。自分がいつも通りに過ごそうとしても、周りがそうさせてくれない。
 出来ることが増え、周りに人が集まっていくたびに、疑心暗鬼になっていく。この中に、本心から「おめでとう」と言ってくれている人はいるのだろうか。そこを見極める必要があること自体、悲しい。
 さて、2億円をどのように使っていくか……。
 
 宝くじが当たったら、人生が狂った。だけどそれは悪い方向だけではなかった。
 宝くじ当選の一連の大混乱があったからこそ、彼は変わらないものの安心感に気付けたのだし、最後、とても大切なものを見付ける。
 宝くじが当たった新堂修一の人生、面白いなぁ。
 と思うけれど、彼のようにはなりたくない。だけど、ああしたいこうしたいと家族で話す時間が楽しいから、今年も夢を買う。そして相も変わらず、大晦日まで妄想を膨らませるのだ。宝くじが当たったら、と。

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