南沢奈央の読書日記
2017/12/01

明日、旅に出ます。

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撮影:南沢奈央

 おととい、「寒い寒い!お腹空いた!」と実家に帰ると、母が「コタツに入ってなさい」と言う。コタツに入ってだらだらとテレビを観ていると、作り立てのあったかいご飯を運んできてくれた。満腹になって、ぷは~っと身体をさらにコタツに滑り込ませると、食器を片付けた代わりに、あったかいお茶とお菓子をお盆に載せて持って来てくれる。母に絶大なる感謝。なんて幸せなのだろう。一生コタツから出たくない……。
 このシーズンになると毎日のように、そう思う。スマホや本、飲み物、テレビのリモコンを近くに準備して、なるだけコタツから出ずに済むように過ごしている。童謡「雪」の庭かけ回る犬ではなく、コタツで丸くなる猫であるわたしがまもなく行こうとしているのは、12月の平均最高気温がマイナス0.8度という場所だ。
 マネージャーさんから、ようやくまとまった休みをあげられそうだよと言われたのは、先週のこと。一週間の休み!なんと心躍る響き!夏頃から旅行に行きたいと言いつつも、実現できていなかった。ついに機がやって来たと、すぐさまネットで「海外ひとり旅 女子」と検索。さまざまな旅行会社のホームページを見ていてピンと来た国があった。だけどそこは東京と比べものにならないくらい寒いし、言葉は通じないし、周りの人に聞いてみるも行ったことある人がおらず……。そもそも色々とやらなきゃいけないことは沢山あるのに、旅行なんて行っていいのか……。
 臆しているわたしの背中をどんと押してくれたのは、偶然本屋さんで見つけたある本の帯だ。益田ミリさんの『美しいものを見に行くツアーひとり参加』。大好きな益田さん、ストレートなタイトルだけでもときめいていたのだが、帯にはこう書かれていた。
 「一回きりの人生。行きたいところに行って、見たいものを見て、食べたいものを食べるのだ。」
 ええい!行ってしまえ!すぐにわたしはスマホを取り出して、旅行の予約をした。それから、本を購入した。

 益田ミリさん自身も、世界のさまざまな美しいものをいつか見てみたいと思いながらも、行くことはないんだろうなぁと行動に踏み出せていなかったひとり。そんな益田さんの背中を押したのは、添乗員が同行するツアー旅行だったそうな。
 なるほど、添乗員さんがいれば言葉で不自由することはないし、見どころに連れて行ってくれて、ガイドをしてくれる。オーロラ鑑賞の時はゆっくり夕食を食べていたら見逃すから、数日分のカップ麺を持って行くといいなんてこと、言われないと分からない。
 また、時に一緒に参加しているツアー客の人と情報や感動を共有している。モンサンミッシェルにて門が閉まっていて引き返していくお客さんもいる中、同じツアーに参加している人から「横の小さいドアから入ることができたよ」と教えてもらえる。
 そして、ひとりきりで時間を過ごすこともできる。クリスマスマーケットでホットワインを飲みながら、ただ笑い合いながらワインを飲む人たちの集まりをぼうっと眺める。
 自分にとっては非日常の、その国にとっては日常に、著者は美しさや幸せを見つけ出していく。
 おんなひとり、世界のどこへでも、ツアーがある限りどこへでも行ける。
 その通りである。好きな人がこう言っているんだもの。とっても単純なわたしは、とっても勇気づけられた。
 いよいよ出発だ。すごく寒そうだから気を付けてねと心配する母に、スキー場に行くようなもんだよ!と強がっているわたしは、コタツの中。

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