「そんな仕事」に恋してる
祖父と祖母が、父方も母方も亡くなってから、おじいちゃんおばあちゃん世代の人と接する機会がぐんと減ってしまった。
だけどわたしは、おじいちゃんおばあちゃんが好きだった。『老人ホームに恋してる。』というタイトルを見た時に、ふと思い出した。
周りが就職活動をしていた時期、わたしは既に女優の仕事をしていたけれど、本当にこの仕事でいいのか、他にやりたいことがあるとしたら何の仕事だろう、と考えたことがあった。そのとき思い浮かんだのが、「介護士」だった。
介護職に興味を持っていた一方で、「大変」「体力仕事」「精神的にきつい」「長時間労働」「給料低い」といったマイナスのイメージも強い。
「本当にそれだけかは自分の目で確かめたい」とインターンシップに参加したのは、本書の著者・大塚紗瑛さんだ。芸大卒である著者の背中をさらに押したのは、同じく芸大卒で介護職員をやっている方の「福祉の仕事はクリエイティブ」という一言だった。そして、3日間のインターンシップを終えて、介護職に就くことを決める。
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- 老人ホームに恋してる。 介護職1年生のめくるめく日常
- 価格:1,496円(税込)
本書は、副題にあるように「介護職1年生のめくるめく日常」を漫画と文章で綴った、コミック&エッセイだ。
やはり実際働いてみると、想像以上の大変さなのだという。介護職に対する身内や知り合いからの目も、好意的ではない。「そんな仕事」とか「勿体ない」と言われてしまう。体力が足りなくて毎日へろへろになってしまう自分自身に対しても悔しいだろうし、周りからは自分の選択を否定されているようで、悲しい思いをしたことだろう。
だからこそ、「仕事を楽しくする努力」をしている。自分の好きな絵を活かしたり、おもしろくて頼れる先輩たちの真似をしてみたり、自分なりの工夫を試しながら日々仕事に取り組む姿が見える。もちろん良いことばかりではない現実も描かれつつ、本人はきっと「そんな仕事」と言われるこの仕事に恋していると言えるくらい、夢中になっているのだということが伝わってくる。
そうして自分なりでも一生懸命に仕事に向き合っていった結果、施設利用者であるおじいちゃんおばあちゃん方もちゃんと向き合ってくれる。
人生の大先輩方は素敵な言葉を何気なくもらす。
「私はアンタのこれからが楽しみだよ」「人生なにがあるか本当にわかんないよ だからね、気を付けなよ」「あせらずゆっくり教わったとおりにやればえぇよ」「あんたなら大丈夫だよ こんなにいい子なんだから」……。
感謝の言葉はもちろん嬉しい。だけどこういった言葉が、さらに著者に力を与え、生き生きとさせているのだろう。
心を通わせた仕事をすること。それって、どんな仕事にも大切なことだと思う。わたし自身も初心を思い出せた気がする。この春、新社会人となる皆さんに贈りたい一冊だ。