南沢奈央の読書日記
2021/12/03

年の暮れ、今年の運勢は

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撮影:南沢奈央

 2021年、あと1か月を残して、もう一年が終わったような気分である。時間さえあれば実家に帰って、こたつでぬくぬくする年末年始モードになっている。
 今年は舞台の一年であった。延期になってしまっていた舞台2本を1月、3月と上演し、昨年の思いを成仏させたような気持ちになり、そして夏には博多、大阪と長期間の地方での上演。その後、初めての二人芝居に挑戦し、先日11月中旬に千秋楽を迎えて、ホッとしているところだ。
 昨年の11月から考えると、この一年で5本の舞台(南沢史上最多)をやったことになるが、一公演も欠けることなく出演することができた。稽古中や公演中に突然中止になってしまった、という他の作品のニュースを見るたびに、胸が痛んだし、他人事ではないという気にさせられた。このコロナ禍で、全初日、全千秋楽を迎えられたことは本当に有難いことだなと思う。
 良い一年だったかも。だけど、そういえば、わたしの“天中殺”っていつだろう。
 ふと思い、六星占術で今年の運勢を調べてみる。
“天中殺”とは、天が味方しない時、つまりよくないことが起きるタイミングなんだそう。その時期に、それまでの生活になかった新しいことを起こすと、必ず困難が生じてハチャメチャになってしまう。

 そもそも占いに頼らないタイプのわたしが、どうして六星占術を調べてみようかと思ったかというと、佐藤愛子さんの『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』を読んだからである。
 この本は、先月11月5日にちょうど98歳(!)になられた佐藤さんの最新、そして最後のエッセイ集。その最初に収録されている「こうしてソレは始まった」で、「来年、天中殺に当ります」と言われたという話から始まる。言われたのは2016年だから2017年が天中殺ということになるが、その年佐藤さんは、『九十歳。何がめでたい』の単行本を出版した。ご存知の通り、さまざまなところで反響を呼び、ベストセラーとなり一躍話題となった。取材やメディアへの出演も増え、「三十代、四十代の元気が横溢していた頃と同じような毎日になっていった」そうだ。
 さすが佐藤さん。「天中殺なんて言ったけど、最高の年だったねぇ」。天中殺なんて忘れるくらいに物ともせず、あっという間に2017年は暮れた――はずだったのだが、大晦日に近づいてきたくらいに、気力は衰え、声を出すわけでもなく、呟いていたのだという。「本が賣れて何がめでたい」。
 良い一年だったなぁと思って天中殺を調べたくなったのは、これを読んだからだ。佐藤さんほど多忙ではなかったにしろ、目まぐるしい一年が落ち着いたところでこの後どっと疲労が来るかもしれない。
 わたしの2021年は、天中殺ではなかった。だが、血の気が引いた。今年は「来年訪れる天中殺に向けて準備する大切な年」だったようである。手遅れだ。何も準備してこなかった。そして、来年天中殺がやってくる……。占いなんて、答え合わせするつもりで調べるもんじゃない。そして、思いがけず2022年がこわくなってきた。
「手に入れたいもの、手放したいことがあるのであれば、我慢したり後回しにしたりせず、思い立ったら行動しましょう」。
 ホッとしている暇はない。こたつから抜けて、冷水で顔を洗う。師走がちゃんと忙しくなりそうだ。

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