南沢奈央の読書日記
2023/03/10

連載継続宣言

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撮影:南沢奈央

 おひさしぶりです。南沢奈央の読書日記、約1年休載させていただいていました。何も告げずにフェードアウトするように更新も減り、突然ストップしてしまったこと、申し訳なく思っています。
 本を読まなくなったわけでも、文章を書かなくなったわけでもなく、単純にお芝居の仕事が有難いことに忙しくなり、時間的にも体力的にも余裕がなくなってしまったというわけです。
 と、そんな言い訳を聞いてもらいたいわけではなく、わたしがまず言いたいのは、読書も文章を書くことも、相変わらず好きだ、ということです。
 ずっと好きで、早く読書日記を再開したいという思いがありながら、どうして今このタイミングなのか、理由があります。
 坂口恭平さんの『継続するコツ』を読んだことがきっかけでした。また連載を再開して、芝居が大変になったら休載してしまうのもいやだし、ちゃんと続けていけるような体制や気持ちが整わないとだめだとこれまで怖じ気づいていたのはたしかです。だけど、坂口さんに語り掛けられました。
〈この生きている時間を、ただひたすら自分がやりたいことだけで埋めていきましょう〉

 あぁやっぱりもっと本を読みたいし、書きたいんだ、という気持ちがはっきりと目の前に現れました。やりたいと思ったときにやらないで、いつやるのか!

 本を読むなら、文章を書くなら、他でもやってきたのだからいいんじゃないか、という頭の中の声も聞こえてきますが、BookBangの読書日記ではないとだめな理由もあります。
 2017年から始まったこの連載。日記として綴り続けてきました。気づいたら150冊以上の本にまつわる日記を書いてきました。それはわたしという人間を形成してきたものでとっても大切なものです。そしてまだわたしの人生は、その延長線上にあります。だから、ここにまた積み重ねていきたい、ということです。
〈継続するコツはこの正直な気持ちに対して素直に向き合う〉〈そのまま素直に出す〉
 継続していくと、それが難しくなってくることもあります。わたしはそうでした。正直最初は、誰が読むかも分からないし、書きたいことを書けばいい、という楽な気持ちでやれていました。むしろ楽しくて仕方なかった。だけど徐々に、うまく書きたい、とか、誰かに伝わったらいいなという下心が芽生えていました。何か向上していく上では必要かもしれないけれど、継続していくにはけっこう邪魔な考えだったのかもしれません。それに気づかずに、結果や人からの評価を気にしてしまって、苦しくなって、余裕がなくなって、続けられなくなってしまったのだと思います。
 もっともっと原始的な、書きたい、という気持ちでいられたら、お芝居の仕事がいくら忙しくても続けられていたのかもしれないな、と気づいたのです。
 坂口さんは、執筆だけではなく、絵描き、作詞・作曲、そして自分の携帯番号を公表して「死にたい人」たちの声を聞くという「いのっちの電話」を10年、20年という単位で継続されています。でもそんな坂口さんは、やりたくないときにはやらない。毎朝4時に起きてまず取り掛かるという執筆においても、売れなくても本にならなくてもどうでもいい、というスタンスで続けている。
〈傑作は人に任せて、一流も人に任せて、僕はただひたすら周りに評価を求めずに、自分でいかに評価し、楽しく死ぬまで継続するかってことだけに力を注いでいます〉
 とても肩の力が抜けている。この本を読んでいると、こちらの力んでいる体もほぐれていく感覚なのです。そして坂口さんは、やりたいことや好きなことを継続することの大きな意味を発見されています。
〈やりたいことを、好きなことを継続してみる〉
〈それさえできていたら、実は幸福なんじゃないかってことです〉
 坂口さん自身もこの本を“継続するコツのふりした僕なりの幸福論”とおっしゃっているけれど、まさに、幸福に生きるヒントがちりばめられた一冊です。
 こうしてわたしはまたここで、文章を書かせていただくことになりました。継続することが目的ではありません。書くことが目的です。でも書きたいから、幸せだから、継続したい。もし、わたしがこの読書日記を継続していくにあたってまた壁にぶつかったら、坂口さんのこの言葉を自分に投げかけたいと思います。
〈今、この瞬間、お前は何が書きたいんだ、ルールなんか飛び越えて、下手でもいいから、今すぐ、悩むことなく迷うことなく、突き進んで書きたいと思うことを書いてみたらいいよ、それはとっても楽しいよ、勇気が湧くよ〉

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