南沢奈央の読書日記
2023/04/21

パンダのひみつ

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク


撮影:南沢奈央

 先日、桜吹雪の上野動物園に行った。母、姉、2歳の姪っ子、そしてわたしの3世代女4人。ディズニーランドや温泉旅行にも行った、仲良しグループである。
 開園時間に合わせて朝一番に向かった。平日ということもあり、スムーズにチケットも購入できて入場したのだが、まず目の前に広がっていたのは長蛇の列。いきなりなんだろうと思ったら、ジャイアントパンダの双子・シャオシャオとレイレイの観覧の列だった。2021年6月生まれの二頭はこれまで母親であるシンシンと過ごしていたが、今年の3月末から終日別居という親離れ、子離れの段階に進んだそうだ。
 現在、父親であるリーリーとシンシンはまた別の場所にいる。先にモルモットなどの小動物やフクロウなどの鳥類、フラミンゴ、キリンやゾウ、カバを見てから、親パンダのゾーンへと行ってみると、人は多く集まっていたが列にはなっていなかったので、わたしたちは見ることができた。
 一目で、“こりゃ人気者になるよな”と分かる佇まい。丸太を背もたれにして片手で上手に竹を食べていた。ちゃんとこちらに体も顔も向けてくれて、あえてシャッターチャンスを与えてくれているように見える。60代の母も、2歳の姪っ子も同じように、「かわいい」と漏らしていた。パンダには全人類を癒やしてくれるパワーがある気がする。

 パンダといえば、あの白と黒の毛色。わたしは小さい頃、パンダは大きな垂れ目だと思っていた。目の周りの黒い毛も目だと思っていたのだ。だけど実際は、真ん丸につぶらな瞳があって、それにまた心掴まれる。
 だが、わたしのような勘違いはパンダにとっては大成功だったのだ。上野動物園に行った後に読んだ『知らなかった! パンダ アドベンチャーワールドが29年で20頭を育てたから知っているひみつ』で知った。
 目の周りが黒くなっている理由はまさに、とても大きな目だと思わせて相手を驚かすことなんだそう。遠くにいる敵に対して、“見ているぞ”という圧をかけられる。人間はかわいいと思っているけど、なるほど他の動物が見たら、もしかしたら怖いと感じるのかもしれない。
 この本は、この4月に45周年を迎えた、和歌山県白浜町にあるアドベンチャーワールドの「パンダチーム」のみなさんが、パンダの生態、繁殖や子育ての裏側、現在アドベンチャーワールドにいる7頭の紹介など、実際に接しているからこその視点でパンダの魅力を解説してくれている一冊。
 パンダの生活は、一日中、竹を食べて満たされたら寝て、またお腹空いたら竹を食べて、また満たされたら寝て……という繰り返し。子どものパンダはよくお母さんにじゃれたりして遊んでいる様子が見られるが、大人になるとこの生活。竹は1頭につき1日に50~70キロ準備しているから相当な量だが、その中でもパンダによって竹の好みがあるのだそう。
 アドベンチャーワールドの「グレートファーザー」と呼ばれる永明(えいめい)は、昨年9月に日本最高齢の30歳を迎えた。人間で言うと90歳のおじいちゃん。アドベンチャーワールドで誕生した17頭のうち、16頭の父親である。彼は特にグルメで、竹のより好みをよくする。スタッフは毎日仕入れた竹の中から、気に入ってくれそうなものを準備するのがひと苦労だとか。でもその甲斐あってか、長寿で子にも恵まれているから、スタッフさんの心配りも尊敬する。
 このように食にこだわりがあったり、他にも、出産前にはダイエットしたり、オスよりメスの方が精神面での成長が早かったり、人と一緒!という共通点がいくつもあって親近感を抱く。

 上野動物園には多くのパンダグッズがあるが、その中で気になったのが、赤ちゃんパンダのぬいぐるみだった。シャンシャンの誕生を記念して作られたというぬいぐるみで、2日齢、10日齢、20日齢の3種類があり、それぞれ当時の大きさと重さを再現して作られている。「ピンク」と言って姪っ子が見ていたのは10日齢のもので、体はピンク色でうっすらグレーの部分が表れているもの。「なんでピンクなんだろうね」「赤ちゃんだからじゃない?」程度の会話でその時は終わっていたが、この本で、パンダの赤ちゃんの白い部分がピンクの理由が分かって泣きそうになった。それは、お母さんがたっぷりと愛情を注いでくれたからなのだ。ピンク色になるのはお母さんの唾液の成分によるもので、よくなめてもらった証なんだそう。そのシャンシャンは今年、中国へ返還され、親もとからの旅立ちを果たした。
 そして白浜町で30年以上過ごしたグレートファーザーも同時期に中国へ。現地では40種類もの竹を用意してもらえるそうだ。また中国で好みの竹を見つけてほしい。
 こうして日本で数多くのパンダが誕生し、すくすくと育っていった歴史を知っていくと、“アイドル”として見ていたパンダに、さらなる愛着と畏敬の念が湧いてくる。その思いをいつか、姪っ子が成長したら伝えてあげたいと思う。

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク