南沢奈央の読書日記
2018/06/22

やかまし村へやってきた!

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撮影:南沢奈央

 今日もまた、舞台稽古を終えて、やかまし村へと遊びに来ている。最近のわたしのリラックスタイムだ。
 やかまし村の生活。なんとまぁ、平和な日々。そこに住む6人の子どもたち。それはもう、可愛い可愛い。「ああ、平和だなぁ」「かわいーっ」とつい独り言が多くなってしまっているのも、疲れているからだろうか。
 好きな児童書のひとつだが、実際“児童”の時には読んでいない『やかまし村の子どもたち』。ちょうど1年前の舞台の時、見に来てくれた友人がプレゼントしてくれた。そして先日また、その友人に、今年も舞台やります、稽古奮闘中です……、と連絡をしたら、やかまし村を読んだら?と言われた。
 舞台の期間に入ったわたしへ本書がたびたび処方される意味。今回分かった気がする。
 舞台のときの達成感は何物にも代えがたいものなのだけど、それは“何が起きるか分からない”緊張状態を味わってこそ。舞台と対極のものが味わえるのが、本書なのである。“何も起こらない”安心感を得ることができるのだ。
 やかまし村の子どもたちの日常を描いたお話を読んで、“何も起こらない”と言ったら、子どもたちは怒るかもしれない。子どもたちにとっちゃ、兄弟と別の自分だけの部屋を与えられたらこの上なく幸せな出来事だし、友だちが犬を飼い始めたら大ニュースだし、大雪の日に学校から帰宅する道中なんて大冒険!だけどもう……微笑ましいったら!
 微笑み過ぎて目尻とほうれい線のシワが深くなったのではと思うくらいだった、「アンナとわたしの家出」。17篇のお話の中でも一番の大ごとと思われる家出の話でさえも、子どもたちの真剣さと、まさかの結末に笑みが止まらない。(以下ネタバレですのでご注意を!)

 主人公のリーサは、隣の家に住むアンナと「家出って面白そう、してみたいね」という話になる。すぐに、家出をしてみてもいいものか、おじいさんに相談する。許しも得て早速今晩、遅く(と行っても夜10時半)に家を出ると決めるのだが、それまで起きていられるか心配するリーサ。アンナは「寝てもいいわよ、起こしてあげるから」と心強い。そしてリーサは足の親指にヒモを縛り付け、アンナが外から起こせるように窓から垂らしてベッドに入る。アンナは、ベッドにネズの枝を敷いてチクチクさせておいて、自分も寝付けないように細工する。リーサはいざベッドに入っても、なかなか寝付けない。挙句の果てに、朝になって自分がいなくなっていることを知ったお母さんは悲しむだろうと想像して、泣き出してしまう。
 だが泣き疲れていつの間にか寝入り、ヒモを引っ張られて起きると、そこにいたのはアンナではなく、兄だった。しかも時刻はもう朝8時。すぐさまアンナの家に行き、起こすと、感動したようにこう言うではないか。「夜、ねむれないっていう人は、ネズの枝をしいて、ねてみるといいんだわ。まったく、けんとうもつかないくらい、ねむくなっちまうんだから」。家出大作戦は、睡魔に負けて失敗に終わる。
 あまりに呆気なく、屈託のないオチである。新作落語にでもして演じてみたいものだ。
 子どもたちにとっては、とてもスリリングで、興奮と緊張を味わった一晩だったろう。だけど大人から見たら、子ども二人がいつも通りぐっすり寝ちゃった話。でもこの“何も起こらなかった”話に安心感を覚え、穏やかな気持ちになるのだ。
 緊張状態を味わっている時にこそ、効いてくる。稽古中で効果を感じているから、来月本番が始まったら、つづきの『やかまし村の春・夏・秋・冬』『やかまし村はいつもにぎやか』に手を伸ばして、頻繁に子どもたちに会いに行っちゃうかもしれない。その時はわたしも秘密基地に連れて行ってね、みんな。

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南沢さんが出演する舞台「ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル」の東京公演は7月6日(金) ~ 22日(日)紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて、大阪公演は8月4日(土)サンケイホールブリーゼにて行われます。
http://www.parco-play.com/web/program/wbts/
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