南沢奈央の読書日記
2020/05/08

猫の首に鈴

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撮影:南沢奈央

 おうち時間が増えて、実家の猫たちとの時間も増えている。
 私の家から実家へは歩いて行ける距離なので、散歩で外に出た時などに、両親と2匹の猫たちの様子を窺いに寄ったりする。
 猫たちと過ごす時間が増えたら、悩みも増えてきた。
 猫のことが、分からなくなってきたのだ。
 たとえば、最近わたしが来るや否や、トック君がわたしの元へ駆け寄ってきて、足にスリスリ。白いまん丸ボディで、すり寄ってきてくれるようになったのだ。もしかして、わたし、歓迎されてる……? うれしくなって、ヨシヨシと撫でてやると、すごく嫌そうに身をかわし、俊敏に離れるではないか。さらに、わたしが触ったところを掃除するようにペロペロとなめるのだ。ショック。到着早々、胸にモヤモヤした気持ちと、ジーンズの膝下部分に大量の毛だけが残る。
 どうしてあなたはそういうことをするの?
 スリスリからの手のひら返しの他にも、様々な場面でそう思うことが最近多い。

 猫の行動が理解できない。対人関係ならぬ、対猫関係に悩んでいるとき、一冊の本を思い出した。
 昨年の夏、猫たちを飼い始めた頃、「これで猫ちゃんたちと早く仲良くなれるといいですね」とファンの方がくださった、その名も『マンガでわかる 猫のきもち』!
『まめねこ』や『トラとミケ』(昨年紹介させていただきました!)など、犬猫のゆるキャラマンガを手掛ける、ねこまきさんのマンガと、「ねこの博物館」館長である動物学者の今泉忠明さんの解説によって、猫の本音を解き明かしていく。
 ねこまきさんが描く、猫と暮らす日常の一コマは、まるで我が家を見ているみたい。猫を飼ったことある人なら、「あるある」が止まらないはずだ。
 ウンチをした後、必ず家中を駆け回る。ベロが出っぱなし。人差し指を突き出すと鼻を近づけてくる。新聞を広げると邪魔しに来る。靴下の臭いを嗅ぎに来る。2匹の猫の毛づくろいがシンクロしている。などなど。
 猫って、不思議だなぁ、かわいいなぁ、すごいなぁ、分からないなぁ。ほっこりしながらも、疑問に思っていた猫の行動の真実を、隣のページで今泉さんが解説してくれる。猫愛に溢れたやさしい文章を読みながら、目から鱗が落ちつづける。
 例の、触ったところをすぐにペロペロとなめる、飼い主にとっては傷つくしぐさ。それに関して、「別に、触られたことが嫌だったわけではありません」とあった時には、目から涙が落ちそうになった。まさか、「飼い主のにおいを味わっている」なんて……。
 スリスリには、逆に、外から帰ってきて猫のにおいが薄まっている飼い主に、自分の体のにおいを付け直しているという意味があるのだそうだ。
 スリスリからの手のひら返しと思っていた一連の行動が、においの交換だったと知って、スッキリ! 次行った時にはショックを受けるどころか、小躍りしてしまうかも。

 さらに、猫だからこその凄い能力も知った。
 まず、聴力が優れている。人には聴こえない高い周波数の超音波まで聴き取れるうえに、音の1/10~1/50の高さの違いが分かるという。猫の音楽隊を結成させたいくらいだ。普段も、わたしのテキトーな鼻歌を聞いて、半音違うとか思われてるんだろうな。
 嗅覚は人の20~30万倍ほど鋭い。もはや想像がつかない。口に入れずとも、おいしい肉や魚が判別できるらしいから、一緒にスーパーに連れて行って買い物を手伝ってほしい。
 さらに鼻は温度計としても使える。湿っている鼻の頭は、わずか0.2度の違いを判別することができるのだそうだ。家の中で、夏には最も涼しい場所、冬は最も暖かい場所を知りたければ、猫に聞くべし。
 だけどおもしろいのは、熱に敏感なのは皮膚が出ている鼻と肉球のみ。毛に覆われている部分はむしろ人より鈍感。人が44度くらいで熱く感じるのが、猫は51度以上になってやっと感じる程度だから、ストーブに近づきすぎて背中の毛が焦げたり、ヒゲがチリチリになっていても気付かないことも。かわいいけど危ない危ない。
 視力も悪いのだそう。特に動かないものを見分ける視力は人の1/10程度。さらに近すぎるものは見づらい。目よりも鼻や口が出っ張っているから、視界に隠れている部分がある。握りこぶしを口の前に当てて、わたしも猫の視界を体験してみると、なるほど、手のひらに乗せたおやつをうまく食べられないのは、そういうことだったのかと納得。

 理解不能だった猫の行動の真相や生態を知って、少しラクになった。相手のことを知ると、付き合いがしやすくなる。対人関係の本を読んだ時と同じ感覚になっている。
 肉球は敏感な場所だからしつこく触らないでほしい。寝ているときにカメラを向けないでほしい。特にフラッシュはやめて。テンション高く寄ってきて執拗に凝視してこないで。
 猫からの要望もよく分かった。だけど、愛おしいがあまり、ついついやってしまう……。
 うちの猫たちが、わたしの首に鈴を付けたいと思っていたら、どうしよう。

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