南沢奈央の読書日記
2020/07/10

初連載漫画

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撮影:南沢奈央

 たまたま通りかかった本屋さんで、たまたま見つけて買ったら、たまたまその日が発売日だった。それを知るとすぐにでも読みたくなってしまって、家に帰るまで我慢できずに、近くにあった公園の芝生の上で開いた。途中で雨が降り始めたけれど、折りたたみ傘を差しながら一気読みしたのは、和山やまさんの『女の園の星』、第1巻。
 漫画賞を総なめしたという『夢中さ、きみに。』を読んでから、和山さんのことを調べたりして、初めての連載が「フィール・ヤング」で始まっていたのも知っていたのだけど、連載物を読むのが苦手なわたしは、毎月買って読むまでには至っていなかった。
 いくら単行本になろうとも、現在進行形で連載しているから、これから何冊続くか分からない。終わりの見えない、そういう漫画を普段は買わない。
 それでも買わずにはいられなかったのは、表紙の絵の力だ。
〈とにかくわたしは、表紙を見ただけで、和山やまさんの絵に夢中になってしまった〉
『夢中さ、きみに。』の読書日記にもそう書いたが、今作で改めて思った。表紙の惹きつける力が凄い。
 表紙は、主人公である星先生。チョークを持った手で眼鏡を上げているその表情からは、まったく感情が読めない。だけど星先生と目が合った瞬間に、なんだか目が離せなくなってしまった。

 前作は主に中高生の男子が描かれていたが、今回の舞台は女子高だ。しかも、主人公が教師。国語教師である星先生の日常が描かれながらも、リアルな女子高生たちの日常の場面もうまく切り取られている。
 学級日誌の備考欄に絵を描いた生徒がいて、それを皮切りに続いているという絵しりとりは、本当にどこかの学校で繰り広げられていそう。
「こんなお遊びに真剣に向き合う必要はない」と言いながらも、星先生は毎日職員室で見ては、絵の解読をするのがひそかな楽しみになっている。だけどある日、スマホの絵の次に書かれた、人物の絵の答えが導き出せずに悩む。「明日の日直の生徒が何を描くかで答えが見えてくるかもしれない」と翌日まで待って来たのが、イカの絵。つまり、「ほ」で始まって「い」で終わるもの。星先生は、答えを出すため本気で頭を抱える……。
 基本真顔で、何を考えているのか、やる気があるのかないのか分からないような表情の星先生だからこそ、大真面目にくだらないことと向き合っちゃっている姿がより可笑しいのだ。
 わたしがこれを公園で読んでいて、傘の中からフフフと声が漏れている様子は、かなり怪しくなっていたはずだが、読めば読むほど、星先生の人物像が見えてきておもしろくなってくる。
 星先生を筆頭に、生徒や教師で個性的なキャラクターが次々登場する。だけど、ぶっ飛びすぎずに、“こんな人いそう!”と思える絶妙な加減で描かれていて、見事に作品の中に引き込まれていった。
 和山やまさんの漫画には、やはり人を夢中にさせる“何か”がある。それを解明するためにも、わたしは『女の園の星』を追い続けたい。
 第2巻を発売日に手にするのは、偶然ではなく、必然になっているはずだ。

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