南沢奈央の読書日記
2017/12/15

リアルへの冒険

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撮影:南沢奈央

 師走の寒空の下、わたしはキャンプ場の管理人として忙しい毎日を送っている。常に駆け回っているので暑いくらい。
 キャンプ場に来るみんながより快適に、より楽しく過ごしてもらえるように、管理人として、遊びに来てくれる友人やキャンプ場管理に詳しい先輩に意見を聞きながら、自分なりのキャンプ場を作っている。
 オープンからもうすぐ一か月、ようやく仕事にも慣れてきて、さらに訪問客が増えたらいいなぁなんていう欲も出てきた。そのために、近くの川や海辺などに出向いて、まずはそこに遊びに来ている彼らに顔を覚えてもらおうと、挨拶をする。何か出来ることがあれば言ってください、という一言も加えて。すると次第に頼ってくれるようになり、おねがいをしてくれるようになる。もちろん、すでにキャンプ場に来てくれている仲間との交流も忘れてはならない。そういった要望を応えることで、みんなが目をキラキラさせて喜んでくれる。それがわたしもとてもうれしく、やり甲斐を感じている。
 「どうぶつの森 ポケットキャンプ」の“にゃお”は、可愛いどうぶつたちと仲を深め、必要とされていることに、安らぎを感じている。

 絲山秋子さんの『小松とうさちゃん』には、“非リアル”に生きる三人が登場する。52歳独身・大学の非常勤講師という実社会とは違うコミュニティにいる、小松さん。彼の飲み友達で、ネットゲームに夢中の40過ぎの敏腕サラリーマン、宇佐美(うさちゃん)。依頼主の入院患者の元に有料で訪問する仕事「見舞い屋」をする小松と同い年のみどりさん。
 リアルとは離れた場所に居場所を見付けて、安定している。人はみな、他人から認められたいという承認欲求がある。だからそこに、自分を必要としてくれている人がいるのだとしたら、居心地の良さを感じるのは当たり前のことだ。
 だがやがて、気付くのだ。非リアルの安定の中で、黙々と日々をこなし、惰性で続けていることに。自分自身が、今の状況にどこか不安や不満を抱いていることに。だからと言って、打開するエネルギーもないことに。
 いくらがんばっても、若い頃抱いていた専任教授になるという夢は叶えることができない世界だということを悟った小松さんは、家族を持つ財力も、魅力もやる気も備わっていない自分の人生に悲観的になり、諦めモードに突入している。うさちゃんは、プライベートのリアルが侵食されていることを自覚しつつ、会社員としてのリアルは保たねばと思いながらも、会社のトイレの個室にこもって、ゲーム仲間とやりとりをしてしまっている。「俺のリアルはどこにあるんだ」と嘆きながら、ゲームをする手が止まらないうさちゃんが可笑しい。みどりさんも、「見舞い屋」という表立って人に言えないような仕事をしていることに後ろめたさを感じながらも、雇い主の八重樫から離れることが出来ないでいる。
 これまでは非リアルから抜け出そうと行動することもできなかった三人。偶然、新幹線で小松さんとみどりさんが知り合い、お互いが恋に落ち、それをうさちゃんが応援することになったことがきっかけで、新しい人生の扉を開ける鍵を手にする。そして扉に向かっていく三人が、まぶしいくらいに輝いている。

 やっぱり、どうぶつたちに魚やフルーツを届けて「さすがにゃおちゃん」と言われる安らぎよりも、フィンランドとエストニアのお土産を届けて「奈央、おかえり」と言ってもらえる幸せの方が大きい。それに気付けたのも、どうぶつたちと、『小松とうさちゃん』のおかげ。

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